2018年世界チェス選手権

先月チェスの世界チャンピオンを決める大会(2018 World Chess Championship)が開催されていたのは、日本ではあまり知られていないかな。ノルウェーの現チャンピオンとアメリカの挑戦者の戦いとなってたんですね。アメリカ人がチャンピオンを戴冠するとボビー・フィッシャー以来の快挙ということで、海外では結構注目が集まっていたようですね。日本での報道は殆ど無かったですけど。

さて、この大会では信じられないことが起こりました。なんと、12試合全て「引き分け(draw)」だったのです(笑) チェスは日本の将棋と違って盤上から駒が減ることはあれ、増えることはありません。駒は取られたら取られたままです。したがって、両者均衡を保ったまま試合が終盤を迎えると、双方の戦力が不足し相手のキングを詰ます(checkmate)ことができなくなるんですね。今年は全12試合でそれが起こったのです! 結局、後日、短時間の試合を数局行って、現チャンピオンが防衛を果たしたんですけど・・・

この日本では馴染みのないチェスですが、海外では一文化として根付いていて、当然英語という言語にもボキャブラリーとして反映されています。今回はそれを見ていこうかなと思います。日本語でも「優勝に王手」とか言いますし、「駄目」が元々囲碁用語だとは殆どの日本人が知らないはず。チェス用語も結構そんな感じかもしれませんね。

Pawn / 手駒

pawn」は質屋の意味のpawn shopでもよく出てきますが、チェスのpawnもたまに出てきます。初期配置のチェス盤だと最前線に横一列に並んでる兵士がpawn。将棋で言うところの歩兵。最初に相手陣に特攻し、仲間のために華々しく散っていく手駒です。

chess pawn
チェスの初期位置のポーン

次のCNNのニュースでは、トランプ大統領が死んだ難民の子供を政治的な手駒として利用していると非難です。これなんかまさにpawnがピッタシですね。自分の利益になればどうなろうと知ったこっちゃないニュアンス。

Trump used two innocent, dead children as political pawns

Endgame / 終盤、最終局面

チェスの終盤は最初に述べたように駒が少なくなって行きます。そして将棋なんかと違って、その駒の少なさゆえ、終盤に入った時点で先手後手のどちらが勝ちかある程度分かるんですね。例えば、ナイト2つとビショップ2つの終盤は、最善を尽くせばどちらが勝ちか分かります。ただし、ポーンの位置が一つズレただけで、勝敗が変わってしまうこともよくあること。ですから、チェスの中盤はある意味どういう状態で終盤を迎えたいかを先手後手両者が争っているという見方もできます。例えば、この局面でクイーンを交換すると終盤戦力不足で勝ち筋がなくなるから止めておこうとか。

次のredditのコメントでは、現在政府機能を停止しているトランプ大統領がendgameを考えていないと非難。Mr. “Art of the Deal"はもちろんトランプ大統領を皮肉っているんですね。著書のタイトルだし、そもそも大統領選はビジネスマンで交渉上手という触れ込みだったので(笑)

Mr. “Art of the Deal” has no endgame plan for the shutdown and is unable to make any deal at all to stop it.

Stalemate / 手詰まり

チェスで「stalemate」は動かす駒がなくなってしまった状態。盤上に少なくともキングは居るんだから動かせると思うかもしれません。でも、キングを動かすと自動的に王手になってしまう時(敵に周囲を囲まれている等)、チェスのルールではキングは動かせないんですね。そして他のコマも動かせない。そんな時、チェスではどうなるのか? なんと引き分けになるんです(笑) 合法手がないんだから動かせないほうが自動的に負けになりそうなものですけど、引き分け。その状況をstalemateと呼ぶんですね。だからチェスでは、圧倒的に勝っていても気を抜けないことがあります。敵のキングが特攻してきて、こちらが下手なmoveをしてしまうと、いつの間にかstalemateになって引き分けとかよくあります(笑) ちなみに、impasseも同じ意味で、海外ドラマによく出てきます。

次のハフィントン・ポストでは、現在の政府シャットダウンの手詰まり状態をstalemateで表現。でもチェスと違って、政治は引き分けにはなりませんけど。

Donald Trump Continues To Blame Democrats Amid Shutdown Stalemate

Blunder / 大ポカ

blunder」はゲーム中にやらかす大ポカ。チェスだと、クイーンをタダで取られちゃったり。オセロだと隅を序盤に取られる感じかな。相手に指された瞬間分かるんですよね、blunderって(笑)

次も、もちろんトランプ大統領ネタ。シリアからの米軍撤退をblunderと非難されます。

Trump ‘about to make a major blunder’ on Syria

Checkmate / 詰み

最後は「checkmate」で〆ましょう。年内最後でもあるしね。checkmateは王手ではなく、王手で相手が逃げられない状況。つまり、詰み。ゲーム終了。一巻の終わり。王手単独はチェスだとcheckと言いますね。

次の画像は、現在のトランプ大統領の状況を表しているのだとか。黒キングがトランプで、白のキングが下院。そしてルックがトランプを捜査しているムラー特別検察官。このendgameは当然白の勝ち。つまり、トランプ大統領はcheckmateと示唆しているわけ。本当でしょうか?

chess checkmate trump king
政治的状況をチェスのチェックメイトに例えられるトランプ大統領

最後に

今回はトランプ大統領のニュースを肴にチェス用語を紹介しました。これらはチェスの文脈だけではなく、普通に日常英会話で使われるものばかりなので、覚えておいて損はないですね。日本語でも、最初に紹介した駄目は囲碁だし、成金・高飛車なんかも将棋由来。でも、将棋用語とか意識せず日常的に使われる表現。今回紹介したチェス用語も同じだと思います。それでは〜


「ステイルメイト」が引き分けでなくなると・・・?↓

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