チャイムは同時、でも別の家

先日、海外ドラマ『ダッシュ&リリー』の感想の記事内で、本作はサスペンスの手法を使っていると述べましたが、そんな中の一つを今回取り上げます。

映画や海外ドラマではおなじみの映像テクニック。家を訪れる側、家に滞在してる側の2組が居て、家を訪れる側がチャイムを鳴らすんです。すると、家に滞在してる側のチャイムも鳴ります。視聴者は当然同じ家を指していると認識するんですが、ドアが開かれると、実は全く別の家だったと言う手法。「知ってる知ってるー」って人が多いのではないかな。

これは、サスペンス・ホラーモノで多用されてますよね。特に、チャイムを鳴らすのが殺人犯や悪役で、屋内にいるのが何も知らない主人公とかがよくあるパターン。見ている側は絶体絶命の大ピンチで、ドキドキしちゃうんです。

『ダッシュ&リリー』での例

実例を上述の海外ドラマ『ダッシュ&リリー』から取ってみると、

ダッシュはリリーの自宅を突き止め、家の呼び鈴を鳴らします。すると同時に、リリーの家でも呼び鈴がなるんです。リリーはドアを開けます。

『ダッシュ&リリー』で、Cut Apartが使われるダッシュがリリーの家を訪問する場面(ドアを開ける前)
Dash & Lily [Credit: Netflix]

でも、両者とも待ち受けているのは、全くの別人(笑) 家全然違うじゃんw

『ダッシュ&リリー』で、Cut Apartが使われるダッシュがリリーの家を訪問する場面(ドアを開けた後)
Dash & Lily [Credit: Netflix]

TV Tropesの記事「Cut Apart」

さて、このテクニックですが、テレビのお約束を集めたサイトTV Tropes⤴️に記事があったので紹介します。そこではCut Apartと命名されていますね。

Cut Apart

アリスはボブの家を見つけたと考える。そして、そのドアベルを鳴らす。

ボブはドアベルが鳴るのを見る。

アリスは暫く待ち、もう一度鳴らす。

ボブは起き上がってドアに向かう。そしてドアを開ける。

アリスはドアが開くのを見る。そして、老女と対面する。アリスは間違った家に来たのだ。

ドラマチックなBGMが流れる中、ボブは玄関で待ってるクリスを見つける。

Cut Apartは、視聴者が見慣れた連続的編集の打破である。我々は同じイベントを2つの視点から見守っていると信じ込まされる。その後、遠く離れた2つの全く異なるイベントであることがネタバレ映像によって明らかになる。多くの場合、我々の期待を高めるのにこの手法が使われる(アリスがボブを見つけるのは最高のこと)が、結局その希望は打ち砕かれる(クリスがボブを見つけるのは最悪)。時々その逆パターンもあって、クリスが居ることが大成功だったりもする。

Alice thinks she’s found the house where Bob is. She walks up and rings the doorbell.

Bob looks up as the doorbell rings.

Alice waits for a moment, then rings again.

Bob gets up and goes to the door. He opens it.

Alice looks up as the door opens… and is face to face with some old lady. She’s at the wrong place.

Bob finds Chris on the porch waiting for him as a dramatic sting hits.

The Cut Apart is a subversion of the Continuity Editing that the audience is used to seeing. We’re led to believe we’re seeing the same event from two perspectives, then the Reveal Shot shows that it’s two separate events that may be miles apart. In most cases, this is used to get our hopes up (Alice finding Bob would be great) only to destroy them (Chris finding Bob is horrible), but occasionally it’s the reverse, and Chris being there is a moment of triumph.

という感じで、まさに『ダッシュ&リリー』そのまんまですね(笑)

ここで興味深いのが、映像作品というのはたとえ編集されていても連続的であると我々視聴者が暗黙のうちに信じ込む傾向を指摘している点。全く別個の2つの事例が説明も無しに一つになってることはありえない。その盲点ゆえ、我々はこのCut Apartにまんまと騙されるわけですね。ちょっとDeal Breakerの気もしますけど。

なお、この用語「Cut Apart」は辞書にも、他のサイトにも載ってないので、多分TV Tropesのサイトが付けた独自の名称な感じです。

『プリズン・ブレイク』での例

ちなみに、このTV Tropesの記事には、有名海外ドラマの『プリズン・ブレイク』でもこの手法が使われていたという情報が載ってましたので、調査してみると・・・

マイケルたちが隠れている貸倉庫を突き止めた警察が現場に乗り込み、シャッターを開けると・・・マイケル側のシャッターも上がって・・・

『プリズン・ブレイク』で、
Prison Break [Credit: Fox]

実は全く別の貸倉庫なのでした(笑) チャイムは鳴らしませんが、同じ手法ですね。

『プリズン・ブレイク』で、
Prison Break [Credit: Fox]

最後に

ということで、今回は視聴者をミスリーディングさせる定番の映像手法Cut Apartを見てみました。自分はこんなものにまで名前がついていて思わず嬉しくなって記事にしてしまった(笑) 日本語訳は何が適切かな?

それにしても、これって誰がいつ始めたんでしょうね? ある意味、ミステリー小説の叙述トリックみたいなもんですから、一番最初に見た人達はきっと全員騙されたと思いますね。皆さんなら、騙されない自信ある?

それでは〜