日本語の「エモい」

日本語に「エモい」というスラングがあります。

Wikipediaを引けば、

意味: エモい

感情が揺さぶられたときや、気持ちをストレートに表現できないとき、「哀愁を帯びた様」、「趣がある」「グッとくる」などに用いられる。

(略)

使うシーンとしては「ぐっと来た瞬間、感動した瞬間」53%、「『ヤバい』の代用」20%、「悲しい、寂しいなど暗い感情のとき」10%

とありますね。簡単に言えば、感動した時の複雑な感情を「エモい」一言に詰め込んでる感じです。古典の授業で習った「あわれ」「おかし」と比較する人もいるようです。

以下、「エモい」の使用例をネットから拾ってみると・・・

エモい

エモい写真撮れた

エモい感じの海岸

エモいツイートありがとう

エモい金曜の夜

というように、自分の感情を動かすものを形容するのに使われていますね。

私の場合だったら、「エモい海外ドラマ」って感じで使うかな?(笑)

いずれにしても、語源としては、音楽のジャンル「エモーショナル・ハードコア」こと「イーモウコア(emocore)」 となっていました。ただ、そんなこと気にしてる人はもう既に居ないでしょうかね。言葉がもう独り歩きしてしまっています。

語源: エモい

元々は音楽のジャンルの一つである「イーモウ(Emo)」からきており、メロディアスで哀愁的な音楽性と切ない心情を吐露する歌詞が特徴的なロックミュージックを指す。音楽シーンでは1980年代から使われていた。パンクロックの一種である「エモーショナル・ハードコア」の略称であるとも言われる

英語の「emo」

ところで、英語にも「emo」という単語があるんですよね。発音は「イーモウ」です:

emo

語源

エモコアの省略形。

Etymology

Abbreviation of emocore.

とあって、なんと、こちらも音楽の 「イーモウコア(emocore)」 由来で、日本語の「エモい」と語源が全く同じなんです(笑)

早速、その英語の方の「emo」の意味を見てみると:

emo

形容詞

  1. (しばしば軽蔑的)感情的な、傷つきやすい。
  2. (話し言葉、しばしば軽蔑的)落ち込んだ。

Adjective

  1. (often derogatory) Emotional; sensitive.
  2. (informal, often derogatory) Depressed.

となっていて、なんと英語では、emoは軽蔑的な用語なんです! でも、日本語の「エモい」をネガティブに使っている人は見たことない。これが「emo」と「エモい」が大幅に異なる点。

更に、意味もかなり違います。というのも、「emo」は「感情的な、傷つきやすい、落ち込んだ」ですからね。だから、「emo」は傷つきやすい若者を(軽蔑的に)形容するのによく使われるんですね。

そして、既にお気づきかと思いますが、形容する対象自体も違う

日本語の「エモい」はもっぱら感情を呼び起こす対象を形容するのに対し、 英語の「emo」は人なんですよ。

こんな差があるなんて、非常に面白いですよね。語源という出処は音楽ジャンルemocoreで一緒だったのに、言葉が成長していく過程で、こんなに意味が違ってくるとは・・・

これが英語勉強の面白さの一つじゃないかなと思います。

海外番組から「emo」の使用例

以下、海外番組で「emo」が実際どう使われているのか見てみましょう。

『ザ・ボーイズ』から

アマゾンの『ザ・ボーイズ』からは、海を見ながらずっと何もしないヒューイに発破をかけるビリー。ここで「emo twat」はすぐ傷つく若者を指してます。「いつまでそんな女々しい若者みたいにふてくされているんだ?」って感じ。ここからも、「emo」がネガティブに使われているのが分かりますね。ちなみにtwatは英国英語で「女性の陰部」の意味から転じて「アホ・嫌な奴」の意。

ビリー: how long we gonna be sulkin’ about like some poncy eyeline-wearin’ emo twat?
『ザ・ボーイズ』で、ヒューイが落ち込んでいるのを励ますビリー
The Boys [Credit: Amazon Prime Video]

『ヴェロニカ・マーズ』から

ヴェロニカは意気消沈。一日中部屋の床に寝転んでは、感傷的な音楽を聞くだけ。そんな彼女の元を訪れたウォレスが、「僕はヴェロニカに会いに来たのに、このemoな女の子は誰だ?」と、暗にヴェロニカがemoだと言います。ウォレスは元いじめられっ子でヴェロニカに助けられたので立場逆転の状況。ヴェロニカは「ほっといて」と言ってから、「wallowing」と言います。wallowは「同情を買う」って意味なので、まさにemoなんですね。ここも、「メソメソ、ウジウジ」といった否定的意味合いです。

ウォレス: I came over here to see Veronica Mars. Who’s this emo girl?
ヴェロニカ: Leave me alone. I’m wallowing.
『ヴェロニカ・マーズ』で、クヨクヨしてるヴェロニカの元を訪れるウォレス
Veronica Mars [Credit: Warner Bros.]

『リック・アンド・モーティ』から

リックが小さくなって中学生になる回。タイニーリックが書き残した絵が不気味だったので、タイニーリックの精神状態を不安視するサマーはモーティにその絵を見せます。リックは、しかし、「emo streak」があっただけとあっけらかん。ここでstreakは「一時期」の意味。つまり、「emo」になる期間がちょっとあったと言うことですが、この絵をよく見てみると、リックが腕を伸ばして「僕を助けて、モーティとサマー」ですから、さすがのサマーでも心配になりますよね。ここでのemoは落ち込んでいるというだけの意味。

サマー: Look at his art, Morty.
タイニー・リック: I’ve got an emo streak. Part of what makes me so rad.
『リック・アンド・モーティ』で、サマーはタイニーリックの精神状態を不安視する
Rick and Morty [Credit: Adult Swim]

最後に

以上、今回は日本語の「エモい」と英語の「Emo」の違いについて見てみました。

英語の「emo」には、日本語の「エモい」にはないネガティブさがありますし、意味も、英語は傷つき・落ち込みやすい若者を指すのがほとんどでした。

逆に、日本語「エモい」には、ポジティブな感情を与えてくれるものを形容するパターンが多いようです。

いずれにしても、こういった違いはなかなか分からないもの。この記事で理解が深まったなら幸いです。

英語で「emo」って言われて喜んではダメってことですね(笑)

それでは〜


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