『都市を歩くように -フラン・レボウィッツの視点-』の番宣ポスター
Pretend It’s a City [Credit: Netflix]

フラン・レボウィッツを知らないで生きてきて後悔

『都市を歩くように -フラン・レボウィッツの視点-』はネットフリックスからやってきた、批評家フラン・レボウィッツの目を通し大都市ニューヨークとその裏の人間模様の変遷を鋭く批評するミニドキュメンタリーシリーズだ。それは上記番宣ポスターからも窺えるよね。彼女の眼鏡越しにニューヨークが映っている。

私は恥ずかしながら、このフラン・レボウィッツ(Fran Lebowitz)⤴️さんを存じ上げてなかった。でも、今回このドキュメンタリーを見て、即ファンになってしまったんだ。というのも、基本的に彼女はユーモラスな皮肉屋なんだけど、頭の回転がとてつもなく速く(御年70になっても!)、言ってることも偏屈なものではなく、現代でも十分に受け入れられるものだったから。ところどころ棘があるんだけど、よく噛み砕いてみれば風味が出てくる、ある意味老舗の料理みたいなもんなんだ。

番組内で出てくる公開インタビューでは、会場の観客からも質問を受けてるんだけど、その観客層が若いこと一つとっても、彼女の意見がその世代の共感を呼んでるのは間違いない。

でも、ひどくつまらない質問(本人曰くクリシェ)をされると超シニカルになってしまうのにはモニターを通して笑ってしまった。ただ、自分が会場の質問者本人だと想像すると、穴があったら入りたい心境になるのかもしれないね。

例えば、オーストラリアから移民してきた女性がニューヨーク市警のパトカーにぶつけられて、市を相手に損害賠償訴訟するのに、いつお金が入ってくるかとフランに回りくどく質問する。もちろんそんなアホな質問に答える我らがフランではない。まず、質問者の枝葉末節の情報をバッサリ切り取って整理し、質問の本質的なところを明らかにする。そして最後に、「それを私が答えるの?」とバッサリ切り捨てるんだ。会場は爆笑の嵐。

フラン: Is this a question?
『都市を歩くように -フラン・レボウィッツの視点-』で、観客からの質問を受けるフラン・レボウィッツ
Pretend It’s a City [Credit: Netflix]

何をStrikeする?

他にも、この人の頭の回転の良さは、インタビューの隅々に出てくるけれど、動詞「strike」を使った以下のセリフでも、その一端は垣間見えるね。60年代のニューヨークの模型の中を歩くフランに監督マーティン・スコセッシがstrikeするものがあるか質問する。このstikeは「思い当たる」の意味。つまり、模型の中を改めて歩いてみて、何か思い出した記憶を聞いているんだ。しかし、当のフランは「何かを思い当たる(strike)」より、「私が何かにぶち当たる(strike)」ことを心配するんだ(笑) 模型は壊したら高いからね。これは単なるダジャレだけど、70歳とは思えない頭の回転の速さじゃない? こういうのが、このドキュメンタリーのそこかしこに出てくるんだ。

監督: So if anything strikes you…
フラン: I’m more worried that I will strike something than anything will strike me.
『都市を歩くように -フラン・レボウィッツの視点-』で、フランはニューヨークの模型の中を歩く
Pretend It’s a City [Credit: Netflix]

なお、このニューヨークの模型のシーンに関しては後日ニューヨーク・タイムズ紙とのインタビューで、結局模型をひっくり返してしまったことが明かされている(笑)

Fran Lebowitz and Martin Scorsese Seek a Missing New York in ‘Pretend It’s a City’

レボウィッツ: クイーンズボロ橋をひっくり返しちゃったの。撮影当時の博物館担当者は朝からずっとビクビクしてて、私は彼が正しいことを証明してしまった。

スコセッシ: あのときだけ「アクション!」と叫んでしまったんだ。何に取り憑かれたんだか分からない。あれで君を驚かしてしまったかなんかしたに違いない。

レボウィッツ: 壊したんじゃないのよ、ひっくり返しただけ。

LEBOWITZ: I did knock over the Queensboro Bridge. The guy who’s in charge of that, the day we shot there, was in a panic the entire time. And I proved him right.

SCORSESE: That was the only time that I ever yelled “Action!” I don’t know what possessed me. It must have thrown you off or something.

LEBOWITZ: I did not destroy it, I just knocked it over.

各エピソードに1つのテーマがあって、それについて彼女が自由に話していくスタイル。全7話。当時の映画から引用やインタビューなどを組み合わせ、現代に生きる我々にも背景が理解できるようになっている。このドキュメンタリーは今までにない新感覚で個人的にかなり面白かった。

題名『Pretend It’s a City』

ところで、このドキュメンタリーの英語題名は『Pretend It’s a City』。つまり、cityであるかのように「pretend」するってことなんだけど、このpretendは「フリをする」の意味。つまり、本当は違うんだけど、そのように振る舞っているってだけ。もちろんこれはニューヨークという街に対して言っている。番組の節々にでてくるんだけど、フランはWASP(アングロサクソン系白人新教徒)がニューヨークの支配層になって、街をcityという高尚なものに変えようとしてるんだけど、表面上は小綺麗に変っても(タイムズ・スクエア、地下鉄等)、中身(そこに住む住民)は変ってないってことを繰り返し主張してるんだよね。原題が邦訳の『都市を歩くように』なんかよりもっと深い意味を持っているのが分かると思う。

最後に

残念ながら日本語訳で見ても彼女の良さはなかなか分からないと思うので、できるだけ多くの人に英語字幕で見てほしいかな。そうすれば、なぜIMDbで現時点の評価が★8.2であるか、その理由の一端がわかると思います。

それにしても、幸いコロナの前に撮影は終わってったということですが、改めて2021年の現在、2019年ニューヨークの人混みを見ると、マスクもしない人々が全く別世界の住人のように感じますね。

それでは〜