「チーズケーキ(Cheesecake)」でピンナップ写真?

前回、英語の「cheesecake」に女性のピンナップ・セミヌード写真の意味があることを見ましたが、一つ疑問が。そもそも、なんでチーズケーキなんでしょうか? 百歩譲ってケーキだとしましょう。でも、ケーキの種類は色々あるのに、なぜにチーズ? もしかして、写真撮る時の掛け声「チーズ」からなんでしょうか?

記事を書き終わってからこんな疑問が頭をもたげ、徹底的に調査を開始です。ピンナップを意味する「cheesecake」について調べたことを以下まとめました。

ピンナップ写真の隆盛

今の我々からは信じられませんが、昔は写真を撮る機会なんて滅多に無かったんですね。だから、写真撮影時は正装して専門家に取ってもらっていたのでした。そして、撮られた写真は一家の宝物として額縁に入れて大切に飾られたのです。これは海外ドラマでも、家の階段の壁に家族や先祖の写真が飾ってあるので有名ですね。額縁に入れてあります。

『アンという名の少女』のアンとマリラ
Anne with an E [Credit: CBC Television]

さて、時が移り写真が大衆化されるとこれに異変が起こります。額縁に入れないたぐいの写真が登場するのです。それが「ピンナップ」なんですね。ピン(針・画鋲)で壁に固定するんです。

『HOMELAND』で、キャリーの家のコルクボード
Homeland [Credit: Showtime]

昔の人からしたら、貴重な写真に穴を開けるなんてとんでもない悪魔の所業なのでしょうが、写真が普及したので関係ないんですね。いくらでも複写できるのです。

さて、そんなピンナップの対象となった被写体は有名人やモデルなんです。特に人気を博したのは(当時としては)過激にも肌を露出した女性。そんな写真を買って、世の男どもは家の壁にpin upしたり、兵士は戦地の宿営地のベッドから見えるところにpin upしたのでした。

これがピンナップと呼ばれるようになった語源ですね:

Pin-up model

ピンナップ写真は非公式な展示目的だ、つまり壁にピンで固定される。これがピンナップの語源の元となった。

Pin-ups are intended for informal display, i.e. meant to be “pinned-up” on a wall, which is the basis for the etymology of the phrase.
水着姿のピンナップモデル
Image by Please Don't sell My Artwork AS IS from Pixabay

「ピンナップ」のタブー化と代替語「チーズケーキ」

しかし、青少年の教育に芳しく無い女性の肌が顕なピンナップ写真が出回るようになると、もちろんそれは問題になったわけです。ピンナップ=悪という烙印(stigma)が押されるわけです。つまり、当時の社会の中でピンナップはタブーとされるんですね。ところで、ある言葉がタブー視されると、通常別の用語を我々は使い始めるんですけど、ピンナップの場合、どうもそれが「cheesecake(チーズケーキ)」だったらしいのです(笑)

Pin-up model

チーズケーキはアメリカのスラングで、薄着やセミヌードやヌードの女性の写真を指す用語として一般に受け入れられた。というのも、ピンナップは20世紀初頭にタブー視されたからだ。

Cheesecake was an American slang word that became a publicly acceptable term for scantily-clad, semi-nude, or nude photos of women because pin-up was considered taboo in the early 20th century.

「チーズケーキ」が「ピンナップ」を指すようになった理由

それでは、最後にして最大の疑問「何故チーズケーキか?」を解き明かしていきますが、当時出版されていた『CheeseCake Pinup Magazine 1953』に答えがそのまま載っていることが分かりました:

以下、重要な部分を抜粋、和訳してみます:

かつて、ニューヨークのニュースカメラマンが、写真をより良いものにするため女性にスカートをちょっとだけ上げるよう頼んだことがあった。 その美しい女性は従った。ちょっとしたグルメな編集者が机の上にあったその女性の写真を見た時、彼はこう叫んだんだ「あら、これはチーズケーキより良いものじゃないか!」

A New York news photographer once asked a woman to lift her skirt ever so slightly to make a better picture. The beautiful woman complied. When the editor, something of a gourmet, saw the picture on his desk, he exclaimed ‘Why, this is better than cheesecake!'
CheeseCake Pinup Magazine 1953

ということで、スカートをちょっとたくし上げた写真を見た編集者から来ていました。実質、その編集者がチーズケーキ好きだったってことだけですね(笑) もし、モンブランだったら歴史は変わっていたわけです・・・。

椅子に座る女性のピンナップモデル
Image by Please Don't sell My Artwork AS IS from Pixabay

海外ドラマの「Cheesecake」の例

なお、海外ドラマで「ピンナップ」の意味での「cheesecake」を探したんですが、これがめっちゃ大変。というのもスラング「cheesecake」自体が古い言い回しらしく、近年は殆ど使われない+通常のお菓子の「チーズケーキ」が囮のように存在して検索を妨害するのです(笑)

『奥さまは魔女』から「Cheesecake」

1時間の格闘の末唯一見つけたのが下記の『奥さまは魔女』のシーン。

ダーリン・サマンサ夫妻の隣に引っ越してきたプレジャーは若くセクシーで独身の女性。サマンサが嫉妬するというコメディでよくあるパターン。そんな彼女が夜中にダーリンを窓の下から小声で呼ぶのです。でも、なぜかすごい薄着です(笑)

Mr. Stephens. Hey, Mr. Stephens. Darrin. Are you awake?
『奥さまは魔女』で、ダーリンを呼ぶプレジャー
Bewitched [Credit: ABC]

先に気づいて起きたサマンサは何事か窓の隅からこっそり確認します。そのうちダーリンも起きてきてサマンサに何があったか聞くのが以下の場面。すると、サマンサは「チーズケーキ・クイーン(cheesecake queen)」とプレジャーのことを言うんですね。薄着だからセミヌードの女王って感じ。これがまさしく求めていたピンナップ、セミヌードの「cheesecake」の使用例です(笑)

ダーリン: Samantha, what’s going on?
サマンサ: The cheesecake queen wants to know
if you can come out and play with her.
『奥さまは魔女』で、窓を見下ろすサマンサ
Bewitched [Credit: ABC]

他にも、このエピソードではもう一箇所チーズケーキが出てくるシーンがあります。 それは夜中ダーリンがプレジャー家を訪れるのを目撃するおせっかいな隣人グラディス。一大事とばかり夫を呼ぶと、夫のアブナーは「Maybe he just wants to borrow a cup of sugar or a slice of cheesecake」と言って笑うんですね。お隣さんに砂糖を借りるのは分かりますが、チーズケーキは意味不明ですね。だから、ここもセミヌード写真とチーズケーキを掛けたジョークになってるんです。

グラディス: Abner. Abner, come here quick.
アブナー: Maybe he just wants to borrow a cup of sugar
or a slice of cheesecake.
『奥さまは魔女』で、グラディスとアブナー夫妻
Bewitched [Credit: ABC]

最後に

今回は英語の「cheesecake」がどうしてスラングで「ピンナップ、セミヌード写真」を意味するようになったかの語源調査でした。そこには、チーズケーキが好きな編集者の存在があったのでした。ニューヨークチーズケーキが好きだったんでしょうかね? 個人的には写真を取る時の「チーズ」から来てる説は結構ありえると思っていたんですけど・・・。

どっかの素人が気まぐれで叫んだ言葉がゆくゆくは辞書に載るまでになるんですから、言語って面白いですね。それ故、全く論理的じゃないんですけど(笑)

それでは〜


海外でも、「はい、チーズ」↓