シェルドン: I found my missing neutrino.
ハワード: Oh good, we can take it off the milk carton.
『ビッグバン★セオリー』で、シェルドンの研究室を訪れるレナードとハワード
The Big Bang Theory [Credit: CBS]

アメリカの牛乳パックの上に昔何があったのか?

今回の記事は、上記『ビッグバン★セオリー』のジョークを理解するために書かれました。

場面は、シェルドンが物理の計算中に見失っていたニュートリノを見つけたところ。ちょうど部屋に入ってきたハワードが「良かった、それ(ニュートリノ)を牛乳の紙パックの上から外せるね」と言うんです。

牛乳パックの上には何があるのでしょうか?

正解:牛乳パック上に行方不明の子供の顔写真がある

実は、昔、アメリカでは子供の写真があったんです。牛乳パック上に行方不明になった子供の写真を載せることで、多くの人に周知してもらう慣習として。

失踪した子供の顔写真が載ってる牛乳パック
Image by Clker-Free-Vector-Images from Pixabay

だから、シェルドンがニュートリノが見つかったと言ったもんですから、ハワードは牛乳の紙パックに載せてあったニュートリノの写真を外せると茶化したんですね。

行方不明に関連する「Milk Carton」イディオム

この「milk carton」に関連した語彙はUrban Dictonaryにいくつかありますね。

まずは、milk carton単独で消え去るの意味:

milk carton

消える、誰かを消す、跡を残さず消える。

to dissappear or to make someone dissappear. To leave without a trace.

on the milk cartonだと行方不明の状態:

on the milk carton

行方不明で。

Missing.

牛乳パックに失踪した子供の情報を載せる慣習の始まり

日本人からするとこれは結構異様な慣習ですが(自分がスーパーで買ってきた牛乳パックに行方不明の子供の写真があると想像すると)、そもそもなんでこんな事が始まったのでしょう?

Wikipediaの「Missing-children milk carton」が該当記事ですね。一部を抜粋します:

Missing-children milk carton

1980年代初頭に、アメリカで行方不明の子供の事件を公にするのに牛乳パックの上の広告が使われた。そのような広告は1990年後半同じ目的を達する他のより人気のプログラムが出るまで続いた。

Beginning in the early 1980s, advertisements on milk cartons in the United States were used to publicize cases of missing children. The printing of such ads continued until the late 1990s when other programs became more popular for serving the same purpose.

ということで、期間は1980年ー1990年と結構短い。

Missing-children milk carton

1970年後半から1980年にかけて、アメリカでは子供の行方不明のニュースがメディアの注目を大いに集めた。主要なものはEtan Patzの失踪や、Adam Walshの誘拐と殺人、これは1983年にテレビ映画化された。これらの報告は「stranger danger」と呼ばれる道徳の危機に発展。1984年にNational Center for Missing and Exploited Children(行方不明、搾取された子供のための国民センター)が創設される。

During the late 1970s and 1980s in the United States, missing child cases garnered a great deal of news media attention. Chief among these were the disappearance of Etan Patz (1979) and the kidnapping and murder of Adam Walsh (1981), whose story was told in the 1983 television movie, Adam. These reports developed into a type of moral panic called “stranger danger”. In 1984, the National Center for Missing and Exploited Children was founded.

牛乳パック上に子供の写真が載る背景としては、子供の行方不明事件がアメリカのメディアを賑わしていたのがあるのでした。それにしても「stranger danger」がここに繋がるとは。

Missing-children milk carton

1984年9月、アイオワ、デモインのアンダーソン・エリクソン乳製品は二人の少年の写真を載せることを始める。(中略)同様の失踪子供の牛乳パック広告プログラムがシカゴ、警察協力の下イリノイ、政府協力の下カリフォルニア州全体で始まった。

In September 1984, Anderson Erickson Dairy in Des Moines, Iowa began printing the photographs of two boys… A similar milk-carton advertising program for missing children launched in Chicago, Illinois with support from the police and statewide in California with support from the government.

アイオワで始まったものが即他の地区に広がっていったのが分かります。

しかし、この効果の程は如何のものなんでしょうか? 記事によると、成功例は一つみたいです:

Missing-children milk carton

ゴッシュやマーティン、パッツを含む多くの子供は見つからなかったが、一つの成功事例が7歳のボニー・ローマンだ。彼女の母と継父が3歳の時に彼女を父親の元から連れ去った。少女の近隣住人が牛乳パック上の彼女の顔を本人と識別した。

Although many featured children including Gosch, Martin, and Patz were never found, one success was the case of seven-year-old Bonnie Lohman, whose mother and stepfather had taken her away from her father when she was three. The girl’s neighbors recognized her face on a milk carton.

効率は悪そうですね・・・。

最後に、この慣習が衰退していった背景ですが、決定的となったのは別の優れたシステムが導入されたからみたいです:

Missing-children milk carton

1980年代後半からこの慣習は衰え始め、1996年にアンバーアラートシステムが導入されると廃れた。今日、アンバーアラートは可能性のある子ども誘拐に関する最新情報をスマートフォンに通知することを含んだ技術を使っている。

The practice had begun to fade by the late 1980s and became obsolete when the Amber alert system was created in 1996. Today, AMBER Alerts use technology including notifications to mobile phones to give up-to-date information about potential child abductions.

ということで、1990年というマジックナンバーから容易に推測できるように、牛乳パックを使った子供の写真の周知はインターネットを用いた安くて早い技術に取って代わられたのでした。

アンバーアラートは、日本でも存在する自然災害や地震の際にスマホに直接通知が来るような仕組みみたいです。

「The Milk Carton Kids」と「The Face on the Milk Carton」

なお、今回このネタを調べていると検索妨害として大量に出て来たのがバンドの「The Milk Carton Kids」と小説「The Face on the Milk Carton」。

前者は、よく考えてみれば結構ダークなバンド名ですね(笑)

後者は子供の誘拐がテーマのヤングアダルト小説。試しにキンドルのサンプルで最初の1章と2章を読んでみましたが、牛乳パックに自分の写真があるのを学校で見つけた女子高校生の話。じゃあ今いる両親は誰なの?って感じ。面白かったのが、結局誘拐といっても別れた夫や妻が我が子を連れ去るのがメイン(上で出したの唯一の成功例のように)。そして、牛乳パックに載せる写真も10年前とかの子供が失踪した5歳の時のものだったりするので、そりゃー成功事例がほとんどないわけですね。実際、小説内の高校生も見つかるわけない的な会話をしています(その後、主人公が自分の幼少期の写真を牛乳パックに見つけるのです(笑))

最後に

今回はアメリカでの牛乳パックに行方不明の子供の写真を載せる慣習についてみてみました。「on the milk carton」がイディオムとして行方不明に結びついているなんて面白いですね。

「知らない人に付いていくと、牛乳パックに載っちゃうわよ!」とか80年代米国のお母さんは子供をしつけたりしてたのでしょうか? 

こういった文化的背景が学べるのも海外ドラマ視聴の利点の一つですね。それでは〜