Take you wonder by wonder

Over sideways and under

On a magic carpet ride

A Whole New World

洋楽カラオケでいつも上位の『A Whole New World』

カラオケに行って、洋楽ランキングをチェックするとかならず上位にあるのが『A Whole New World』ですよね。途中から男女入り乱れての輪唱みたくなるからめっちゃむずいと思うんですけど、みんなちゃんと歌えているんでしょうか?

そんな『A Whole New World』も、元を辿ればディズニーアニメの名作『アラジン』で有名になったわけです。アラジンが王女ジャスミンの手を取り魔法の絨毯に乗って歌い出すんですけど・・・

YouTubeにディズニー公式のSING-ALONGクリップがあったので載せておきます:

歌詞中にある「魔法のじゅうたん」ネタ

そして歌詞の中にも(和訳も載せておきます)

on a magic carpet ride(魔法の絨毯に乗って)

a new fantastic point of view(新しく素敵な視点)

When I’m way up here(私が空高く居る時)

unbelievable sights(信じられない光景)

with new horizons(新たな地平線と共に)

のような、魔法の絨毯に乗っているからこその表現がたくさん出てきます。というか『A Whole New World』の曲名自体からして、whole(完全に)、new(新しい)、world(世界)と言っているので、王宮の中だけのつまらない世界ではなく、魔法のじゅうたんから眺めた景色のようにアラジンが新しい世界を王女に見せてあげると言っているわけでした。

魔法の絨毯
Image by Clker-Free-Vector-Images from Pixabay

アラジンの中に登場する魔法の絨毯に違和感

だから『A Whole New World』の曲は魔法の絨毯(magic carpet/flying carpet)の存在なくしては成立しないんですね。

でもさ、先日ふと疑問に思ったんです。

原作であるアラビアンナイトの『アラジンと魔法のランプ』で、アラジンって魔法の絨毯乗ってたっけ?

って(笑) アラジン本人はジーニー(ジン、魔神、精霊)に頼んで瞬間移動してただけのような・・・。『ドラゴンボール』における、筋斗雲と瞬間移動くらい違いがあるんですよ、これ。

千夜一夜物語を読んで確認

自分が『千夜一夜物語』を読んだのは、大昔に多分岩波文庫かなんかだったので、今回アラジンと魔法の絨毯の関係を調べるため、プロジェクト・グーテンベルクのAndrew Lang訳のアラビアン・ナイト英語版を読んでみることにしました。読みたい方は以下から:

その中で、カーペットが出てくるのが本質的に次の箇所、アラジンが王女と結婚するに当たり新居の宮殿を(ジーニーに頼んで)建てるんですが、王女の居る宮殿と新居の宮殿の間にカーペットを敷くんですね。そして、王女は嫁ぐ結婚式の夜、そのカーペットの上を歩いて新居に向かうんです:

At night the princess said good-bye to her father, and set out on the carpet for Aladdin’s palace, with his mother at her side, and followed by the hundred slaves.

The Arabian Nights Entertainments by Andrew Lang

これって本当に普通の絨毯で、魔法も無いし、飛ぶこともないんですよ。

ただし、飛ぶような描写は実は一箇所あるんですね。(アラジンとの約束を破って)大臣と息子と王女が結婚する夜、アラジンはジーニー(ジン)に命じて、二人をベッドごと運んでくるのです(笑):

at midnight the genie transported the bed containing the vizir’s son and the princess.

The Arabian Nights Entertainments by Andrew Lang

まさか二人を街中引きずってきたとは考えられないので、このベッドは飛んだんでしょう。だから、原作の空飛ぶベッドの描写がディズニー版で翻案されて、空飛ぶ絨毯となったんでしょうか? ただしその場合、空飛ぶのが王女と大臣の息子で、アラジンじゃなくなってますけどね。

正解は、魔法使いの魔法の指輪の精霊

更に調査を進めていたら、テレビでのお約束を集めたサイトTV Tropesに正解が載ってました:

Magic Carpet

ディズニーの『アラジン』シリーズは魔法の絨毯をキャラクターとして特徴づける、喋れないが疑いなく感覚を持っている。この絨毯は一見したところ、原作での(魔法使いの)指輪のジーニー(精霊)の代役を意図している。

Disney’s Aladdin franchise featured a magic carpet as a character, mute but doubtlessly sentient. The Carpet is apparently meant as a stand-in for the Genie in the Ring from the original story.

なんと、原作の指輪のジーニーなのでした(笑)

実は原作では、最初に魔法使いがアラジンに魔法のランプを洞窟奥に取りに行かす時に、安心させるため魔法の指輪を貸すんですね。そして、この指輪を擦ってもジーニーが出てくる仕様なんですよ。実際、アラジンは閉じ込められた洞窟からこのジーニーの力で抜け出します。だから、原作では2匹(?)のジーニーが居る設定なんです。もちろん「ランプの精>指輪の精」という力関係なんですけど、視聴者にはちょっと混乱する設定です。そこでディズニーアニメ版『アラジン』では、「指輪の精」の方をアラブの世界で盗賊なんかでおなじみの「空飛ぶ絨毯」に置き換えたのでした。そして、その決定が名曲『A Whole New World』に繋がったのです。これでようやく、アラジンが魔法の絨毯に乗ってる理由が分かりました(笑)

最後に

今回はディズニーアニメでアラジンが魔法の絨毯に乗ってる疑問への調査でした。そこには、原作での2匹のジーニーという設定の紛らわしさをディズニーがうまく回避するために魔法の絨毯キャラを導入し、更には新しい設定から名曲『A Whole New World』まで作り出していた事実がありました。

だから突き詰めると、この問題は2匹のジーニーという超紛らわしい設定にした『千夜一夜物語』の語り手シェヘラザードが大戦犯と言えるんですけど、彼女の場合、何百夜も連続して即興でネタを作り続けていたのですから、このくらいの小さい設定ミスはドンマイと見逃してあげるべきでしょうかね。ある意味、名曲『A Whole New World』も彼女のおかげでできたわけだしw(それは違う)。それでは〜


欧米で飛ぶ乗り物は「ほうき」↓