映画『スティング』の最後のシーン

映画『スティング』を見ていたら、一番最後に面白い場面がありました。二人の詐欺師が去っていく場面。次第に画面周囲が暗くなり、円が小さくなりつつ二人にフォーカスされていくのです:

映画『スティング』で、最後の場面
The Sting[Credit: Universal Pictures]

これを見た瞬間、今まで何回も見たことあるやつだ!と思ったわけです。それで今回、このテクニックについて調べてみました。

Key & Peeleのスケッチでも

と、その前に、Key & Peeleのネタでもこれが使われているので紹介しておきましょう。

『Key & Peele』で、A Worst-Case-Scenario Job Interviewでのアイリスアウト
Key & Peele [Credit: Comedy Central]

YouTubeクリップは下記から。

このコメディは80年代をモチーフにしてるみたいですが、円が小さくなっていき、最後にちょっとしたコメントをする手法は、古さや懐かしさを感じさせる効果はあるようですね。

アイリスアウト(Iris Out)

この場面転換の手法はアイリスアウトと呼ばれていて、既に日本語にもなっていました。テレビのお約束を集めたTV Tropesに解説があったので一部訳出:

Iris Out

画面の端が真っ暗になり、それが内側に進む転換のこと。カメラの絞り(アイリス)が閉じられるに従い、画面視野が次第に小さくなる円になる。円はスクリーンの中心になるか、あるいは、注意を向けるために物体や人物にフォーカスされる。絞りの中心が人物の場合、円の縮小が一時停止し、その人物が気の利いた一言を言うこともある。

A transition where the screen turns to solid black starting at the edges and pushing inwards, forcing the view of the scene into an ever-dwindling circle in the manner of a camera iris closing. The circle is centered either on the physical middle of the screen, or on some object or person of importance in order to draw attention to it. When the center of the “iris” is on a person, it sometimes pauses to allow them to get off a One-Liner or other comment.

ということで、カメラの絞り(アイリス)から、アイリスアウトと呼ばれている撮影技法なのでした。

もちろん、逆のアイリスインもあって、アイリスアウトを逆再生したバージョン、つまり、小さい円から逆に見える範囲が広がっていく技法みたいですね。こちらは場面が開始する時に使われるのでしょう。

解説最後のアイリスアウトで人物に焦点が行く場合の話で、その人物がちょとしたコメントを言うというのが、まさに上で紹介したKey & Peeleのスケッチのパターンですね。

アイリスアウトの起源は?

こんな事誰が始めたんだ?というのは率直な疑問ですが、上記TV TropesとWikipediaの記事を併せて読んでみると、どうも無声映画の頃から既に存在していた映画最終場面を撮影する時のテクニックみたいですね。昔はみんなカメラの絞りを絞って最後の場面の撮影を終えたのです。当時はそういうもんだったんですね。

Iris Out

この効果は、最後の場面の撮影をするためカメラの物理的絞りを絞った初期の撮影技法から来ている。

The effect originates from the early filming technique of shrinking the physical iris of the camera to film closing shots.

Iris shot

アイリス撮影は無声映画でよく使われた技法だ、他のものを差し置いて、場面の詳細を強調するために、より典型的には場面を始めたり終わらせるのに。映画カメラの絞りはゆっくり閉じられ開かれる、フィルム上に見えるものが円が黒を背景に小さくしたり大きくしたりするのに。

An iris shot is a technique frequently used in silent film, sometimes to emphasize a detail of a scene above all others, more commonly to end or open a scene. The film camera’s iris is slowly closed or opened, so that what is visible on film appears in a decreasing or increasing circle, surrounded by black.

しかし、次第に使われなくなって、オマージュでアニメで使われつつ現在に至ることがWikipediaの続きに書いてあります:

Iris shot

無声映画の時代が終わると、この技法は使われなくなる。主に皮肉やコメディの効果のためだけに蘇えされてきた。

非無声映画のスラップスティックやアニメ(レッド・スケルトン、ベニー・ヒル、ワーナー・ブラザースのロードランナー)は、無声映画時代へのオマージュとして、時々このアイリス撮影の手法を用いたり真似たりした。

After the silent era, the technique fell into disuse, and has mainly been revived only for ironic or comedic effect.

Non-silent era slapstick and animation—such as that of Red Skelton, Benny Hill, and the Warner Bros. Road Runner cartoons—sometimes employ or emulate the iris shot as an homage to the silent film era.

確かに、アニメではアイリスアウトは使われていた印象はありますね。具体的に何かと指摘はできませんが・・・

スーパーマリオ64でも使われていた

そこで色々考えていたら、テレビゲームのスーパーマリオ64でアイリスイン・アイリスアウトが使われていることに気づきました。スターを取った後などの場面転換時に、以下のような切り替わりがなされていたことを思い出す人も多いことでしょう。また、円だけでなくスターの形でフォーカスがなされたり。デジタル時代に敢えてこの技法を使うのは、なかなか斜め上の面白い発想ですね。

『スーパーマリオ64』の場面転換での円形のアイリスイン・アイリスアウト
Super Mario 64 [Credit: Nintendo]
『スーパーマリオ64』の場面転換での星型のアイリスイン・アイリスアウト
Super Mario 64 [Credit: Nintendo]

最後に

今回は映画の最後のシーンなどに出てくる画面の周囲から暗くしていき円の内部に注意を向けさせる映像手法「アイリスアウト」について見てみました。この手法に名前が付いていたなんて、素敵すぎますね。

個人的には、人物を円で強調するこの手法は、学生時代の卒業写真撮影時に休んだ同級生のことが思い出されて仕方ないのですが・・・。卒業写真の左上で一人だけ円の中に収まっていた彼。あれも卒業アルバム読者の注目を集めるという意味では、アイリスアウトの一種なのかもしれません(←それは違う笑) それでは〜