スラング「Lampshade(ランプの傘)」

最近知った面白いスラング「lampshade」について、調査した時に自分が理解したことを以下まとめておきます。多分、将来誰かの役に立つはず(笑)

まず、lampshadeの文字通りの意味は「ランプの傘」のこと:

天井から吊り下がる電球とランプのかさ
Image by Esther Merbt from Pixabay

このlampshadeに英語ではスラングで不思議な意味があるんですよ:

lampshade

動詞

(物語学、ファン・マニアのスラング)フィクション作品自身の中で、要素や状況のありそうになく、調和せず、平凡な特質に意図的に注意を促す

Verb

(narratology, fandom slang) To intentionally call attention to the improbable, incongruent, or clichéd nature of an element or situation featured in a work of fiction within the work itself.

これだけじゃ全く意味がわかりませんね(笑) 私もそうだったので今回深堀りしたんです。

ストーリーテリングでの「Lampshading」

テレビのお約束を集めたサイトTV Tropesの「Lampshade Hanging」記事に、この「ランプの傘」について、より分かりやすく記述がありますね:

Lampshade Hanging

ランプの傘をぶら下げる(または、より砕けて「ランプの傘」)とは作家が物語の要素を扱う芸当だ、それは読者の物語にのめり込もうとする意欲を脅かす、とても信じがたい筋書きを進展させたり、特別なあからさまなお約束を使ったり、それに注目を集めることによって、そして単に無視して。

Lampshade Hanging (or, more informally, “Lampshading”) is the writers’ trick of dealing with any element of the story that threatens the audience’s Willing Suspension of Disbelief, whether a very implausible plot development, or a particularly blatant use of a trope, by calling attention to it and simply moving on.

これでも分かりにくいかな?(笑)

「Lampshading」の個人的解釈

以下、私の「ランプの傘」の理解を述べてみます。

まず、フィクション作品の受け手(読者・視聴者等)はその作品が好きならその物語に没入したくなるのです。登場人物があたかも自分の友だちみたく近く感じる。そして、そのフィクション世界も実在するように感じてしまうものなのです。というか、実在してほしいのです。それが筋金入りのファンというもの。

ただ、一部作品の中には時々、その熱狂的ファンの没入を一気に現実に引き戻すような表現や会話や小道具などが登場することもあるんです。その行為を英語で「lampshade(ランプの傘)」と言っているのですね。

例えば、具体的な例で言えば、日本で有名な夏目漱石の『吾輩は猫である』の猫は名前が無いのですよね。でも、もし小説中に

ところで、吾輩には名前はないが、吾輩の生みの親の漱石は吾輩を「たま」と呼んでいる。

という文があったとして下さい。こんなメタな発言はタブーなのであり得ないのですが、あり得たとしましょう。そして、あなたは『吾輩は猫である』の大ファンであるとして下さい。こんな文章読んだら、一気に現実に引き戻されて「あ、これは小説だったんだな」と感じてしまうと思います。これが「lampshading」なんですね。

海外ドラマでの「Lampshading」

これでもまだ分からないというあなたのために、TV Tropesの記事には海外ドラマでの「Lampshading」の例が取り上げられていましたので、以下いくつかピックアップしてランプの傘の例を見てみたいと思います。

フレンズ

チャンドラー: Door hasn’t been locked in five years, but okay.
『フレンズ』で、モニカとチャンドラーは一緒に住むことを決める
Friends [Credit: NBC]

有名シットコム『フレンズ』では、モニカとチャンドラーがモニカのマンションに一緒に住むことを決めるシーン。あまりの嬉しさにモニカは「初めからやり直し。一旦鍵を閉めるから鍵を使って入ってきてみて」とチャンドラーに言います。チャンドラーは「5年間鍵なんて掛けてなかったじゃん」と言いますが・・・。

実は、これはシーズン6の冒頭で、それまでモニカのマンションのドアに鍵が掛かっていたエピソードは無いんですね。もちろん、モニカやチャンドラーがフィクションでなくリアルな存在なら、当然夜中は鍵するはずですよね。だから、これはめっちゃメタな発言なんです。この瞬間、ファンは「あ、『フレンズ』ってシットコムだったんだ」と現実に連れ戻されるわけです。

ブレイキング・バッド

『ブレイキング・バッド』で、ウォルター家屋根上のピザ
Breaking Bad [Credit: AMC]

『ブレイキング・バッド』ファンにとっては、忘れようとしても忘れられないウォルター家の屋根に投げられたピザ。これも海外ではlampshade hangingとして捉えられているようですね。このように、ストーリー進行に関係のない異質なもののクローズアップも、読者を一気に物語内から現実に引き戻すのです。

ビッグバン★セオリー

I’m curious, what part of America is that accent from?
『ビッグバン★セオリー』で、キラーロボット対決するラジ
The Big Bang Theory [Credit: CBS]

『ビッグバン★セオリー』では、クリプキという訛りの強いキャラが出て来るエピソード。その中で、ラジは視聴者の声を代弁するかのように「あれはアメリカのどこのアクセントだ?」と疑問を述べます。もちろん、どこのアクセントでもなく、役作りで作られたアクセントなのですが・・・。そして、そのラジの疑問は他のキャラから無視されて、場面転換されてしまいます。このような物語に直接関係ないセリフ(しかも視聴者の疑問の代弁)もlampshade hangingなのですね。

いかがでしょうか? 実際の例を出せばなんとなく分かってきたのではないでしょうか。

スラング「Lampshade」の語源

なお、そもそも何故「ランプ傘」なのかですが、こちらはWiktionaryに載ってますね。事物の上にランプ傘を吊るして目立たせるところからみたいです:

lampshade

語源

動詞の意味は、物の上にランプ傘を吊るせばより目に付くアイデアから来ている

Etymology

The verb sense comes from the idea of making something more conspicuous by hanging a lampshade on it.

つまり、『ブレイキング・バッド』の屋根の上のピザは、上方からランプ傘を吊るして照らしているかのごとく目立つんですね(笑) ランプだけじゃなく傘もあることで、その物体だけに光を集めているニュアンスです。

最後に

今回はストーリーテリング上の「lampshade」という概念が面白かったので紹介してみました。基本的にメタな発言はlampshadingですが、それ以外にもストーリに全く関係のない「ピザ」なんかもlampshadingみたいですね。大筋には、視聴者を現実に戻す仕掛けって理解で良さそうです。日本語訳は何が良いんでしょうね? 調べれば何かありそうですが・・・。それでは〜