日本語化された「ビッチ」の意味

最近気がついたんですけど、「ビッチ」って既に日本語になってるんですね。

適当にググったニュースで出てきたビッチを取り上げてみましたが、共通するのは「誰とでも寝る、性に開放的、みだら」な女性といったニュアンス。

実際、Wikipediaでも

ビッチ

女性(稀に男性)に対する侮蔑語。日本のインターネット上ではふしだらな女性、性的に奔放な女性、娼婦などを蔑む意図で、俗に言うヤリマンの同義語として使われることがある。

とあるではないですか! つまり、ビッチは既に日本語化されてるってことです。

英語での「Bitch」の意味

ただ、話はそう単純なものではないのです(だから、私はこの記事を書いているのです(笑))。

実は、英語での「bitch」は、軽蔑的に女性を指すのが一般的。あとは、ガミガミ言う動詞のbitchingと似て嫌な女性って意味。

bitch

  • (通俗、侮辱的)いけ好かない、不愉快な好戦的人物。通常、女性。
  • (通俗、侮辱的) 女性。
  • (vulgar, offensive) A despicable or disagreeable, aggressive person, usually a woman.
  • (vulgar, offensive) A woman.

卑語bitchの英語での意味合いは、詳しくは、『あなたの知らない卑語の歴史』を見てほしいんですけど、いずれにせよ、ヤリマン的な意味は現時点では英語のビッチにはないのです。

海外ドラマ・映画での「Bitch」

Key & Peele

次はKey & Peeleの「I Said Bitch」というスキット(寸劇)ですが、自分の妻に向かって「Bitch」というために、最後は宇宙にまで行ってしまう夫2人(笑) それだけbitchがタブーな単語であることが分かりますね。そして、彼らはここで、妻を「ふしだら」と言いたいわけではないのです。出発時間になってもシャワーを浴びてたり、レストランどこでも良いと言っておきながら「ステーキ屋」にすると不満を述べる妻たちを「bitch(クソアマ)」と、ただただ声を大にして呼びたいのです(笑)

スクール・オブ・ロック

他にも、映画『スクール・オブ・ロック』では、女性校長が「自分はbitchだ」と言うシーン。親御さんからの生徒への教育に関するプレッシャーで、自分はビッチになってしまったと言うのですが、教育者としてbitchは音声化できない単語なので、音にはせず口だけで述べます。明らかに、ヤリマンの意味ではありませんね。なお、ここは、私が英単語「bitch」がいけない言葉だと悟った最初の場面でもあります。

女校長: that pressure has turned me into one thing I never wanted to be (口だけで)a bitch.
映画『スクール・オブ・ロック』で、校長は「ビッチ」と音声化せずに言う
School of Rock [Credit: Paramount Pictures]

以上見てきたように、英語の「bitch」には、現時点で性的にふしだらな意味はないんですね。

英語での「Bitch」の古い意味

ただ、一つ重要な点は、過去、英語の「bitch」には日本語の「ビッチ」の意味があったんですね(笑)

bitch

(古い、侮辱的)誰とでも寝る女性、尻軽女、売春婦。

(archaic, offensive) A promiscuous woman, slut, whore.

アーケイック(archaic)とあるように古いと条件付きですが、昔は英語でもbitchが尻軽女を意味したんですね。

となると、問題は、日本語の「ビッチ」がなぜ英語での古い意味「尻軽女」を持つようになったかに絞られたと言っても過言ではありません。これを週末調べていたんですけど、なかなか良い考察がネット上に見つからなかったので、最終的に自分で検討してみました。

ネオンサインの前に立つ女性
Photo by Max Andrey on Unsplash

日本語には「サノバビッチ」が最初に到来

まず、「ビッチ」という語彙が日本語に入ってきた経路ですが、Google Booksで調べてみると1940年代後半から「サノバビッチ(son of a bitch)」のフレーズと共に入ってきたようです。これは戦争に負けてアメリカ兵が駐屯し、アメリカの情報が大量に入ってくるようになったので自然でしょうか。「bitch」単独ではなく、フレーズ「son of a bitch」で入ってきたのがポイント:

ガッティ・サノバビッチ!」と、どなこれが僕には理解出來ない。本當に東京靡から乘る人々のためを思つてアナウンスするなら御乗客は、只の一人もるやしない。

卅年by 石川欣一(1948年)

サノバビッチ! (大馬鹿野郎奴)」囚人とかいう、監督者側と被監督者側といつ氣地がなかったんだ」

中央公論(1952年5月号)

ガッデム・ファゴン、サノバビッチ、スチュービッド

新日本文学(1959年)

サノバビッチ(son of a bitch)の意味

このサノバビッチの意味ですが、いわゆるスラングで「いけ好かない人物」の意味。なお、日本語のアニメ作品などで主人公の言う「この野郎!」のセリフなんかは英語訳される際に一律「son of a bitch!」や「bastard!」に変換されるようです。

son of a bitch

(軽蔑的、スラング、粗野)不愉快な、卑劣な人物。

(derogatory, slang, vulgar) An objectionable, despicable person.

サノバビッチ(son of a bitch)の語源

こうなると気になるのが、サノバビッチの語源。英語にすると「son of a bitch」ですね。一体、誰の息子と言っているのでしょうか? 上記Wiktionaryに語源について書いてありますね:

son of a bitch

語源

中英語の初期のフレーズbiche-sone(son of a slut、文字通り、売春婦の息子)の変形、古代スカンジナビアbikkju-sonr(売春婦の息子)から。

Etymology

Alteration of an earlier phrase represented by Middle English biche-sone (“son of a slut”, literally “slut’s son”), Old Norse bikkju-sonr (“son of a slut”).

とあるように、売女の息子なんです。これはbitchの古い意味と完璧に一致しますね。

日本語「ビッチ」がヤリマンの意味を持つに至った経緯(私論)

ここからは私の想像ですが、昔、アメリカ人がよく使う「サノバビッチ」なる不思議なフレーズに興味を持った日本人がいたと思うんですよ。その人が語源を調べると「売女の息子」と出てくる。それで「bitch=売春婦」の意味と勘違いし使い始め、いつしか日本でこの意味合いが定着したんではないでしょうか? 私自身もフレーズ「サノバビッチ」は聞いたことあっても、「ビッチ」単独は英語を学習するまでは知らなかったので、当たらずといえども遠からずな気がします。

最後に

今回は日本語化された「ビッチ」の意味が英語の「bitch」とはかけ離れたものになっている理由を調べてみました。「サノバビッチ」が最初に日本語の語彙に入ってきたのは確かなので、その語源からビッチの意味が誤って広まったのかなと推測します。

bitchと言えば、刑務所等で女性以外に男性にも使われるのですが、それはまた別の話。それでは〜


Karma is a Bitchで有名↓