I got a bridge to sell you

海外ドラマ『ブレイキング・バッド』に興味深いシーンがあります。A.P.D.(アルバカーキー警察)がハイゼンベルクを名乗る男を捕まえた後に、麻薬捜査官のハンクとゴメスがそれが本物のハイゼンベルクかどうか議論する場面。ゴメスはこれを信じますが、ハンクは信じないんですね。英語では、売り買いで信じるかどうかを言えるので、ここの「you don’t buy it」は信じないってこと。

ゴメス: maybe your Heisenberg’s in prison. So says A.P.D. They think they got their man. I know you don’t buy it, but maybe it’s true.
『ブレイキング・バッド』で、ゴメスはハイゼンベルクが捕まったと主張
Breaking Bad [Credit: AMC]

ここで、ハンクの返答が不思議なんです。「I got a bridge to sell you」と、売る橋を持っていたと主張するんです。この関係ない唐突さ加減は、明らかにイディオム臭がしますね(笑)

ハンク: James Edward Kilkelly, yeah. A.P.D. thinks this is our mastermind. You believe that, I got a bridge to sell you.
『ブレイキング・バッド』で、ハンクはハイゼンベルクは捕まってないと主張
Breaking Bad [Credit: AMC]

「I Have a Bridge to Sell You」の意味

実際、このフレーズは立派なイディオムなんです。動詞がgetとhaveと少し違いますが、Wiktionaryに載っていますね。その意味は騙されやすいってこと(笑)

I have a bridge to sell you

(イディオム的、アメリカ)誰かが騙されやすいことを表現する遠回しな方法。

(idiomatic, US) An indirect way of expressing someone is gullible.

つまり、ハンクはこのイディオムを使ってゴメスが騙されていると暗に言ってるのでした。

その語源とは?

同記事内に、このフレーズの語源についても載ってますね。ブルックリン橋を買うよう騙した伝説の詐欺師が昔ニューヨークに居たんですね:

I have a bridge to sell you

語源

ジョージ・C・パーカーと関連、悪名高い詐欺師、カモにブルックリン橋を買うよう騙すのに成功

Etymology

In reference to George C. Parker, an infamous conman who successfully duped his victims into “buying” the Brooklyn Bridge.

伝説の詐欺師ジョージ・C・パーカー

と言っても、「ブルックリン橋を売る」って、いまいちよく分かりませんよね?(笑) そこで、この人物ジョージ・パーカーを深堀りしてみました。

まず、ブルックリン橋について。一言で言えば、ニューヨークに掛かるどでかい橋ってこと:

Brooklyn Bridge

ブルックリン橋はニューヨークにある斜張橋と吊橋のハイブリッド橋で、マンハッタン区とブルックリン区の間のイースト川に架かかる。

The Brooklyn Bridge is a hybrid cable-stayed/suspension bridge in New York City, spanning the East River between the boroughs of Manhattan and Brooklyn.
マンハッタンとブルックリンを結ぶブルックリン橋
Image by cadop from Pixabay

この橋を売るのは実質不可能なんです。我々がレインボーブリッジを売れないのと一緒(笑) でも、その不可能を売るほどの説得力を持つ奴は稀代の営業か詐欺師かって話は元々あったみたいですね。それを成し遂げたのがジョージ・C・パーカーの旦那。

For You, Half Price

ブルックリン橋が1883年に完成して以来、橋を違法に売るという考えは説得力の究極例になっていた。優秀なセールスマンは売れるかもしれないし、凄腕の詐欺師だって売れるだろう。そして、完璧なカモはその詐欺に引っ掛かるんだ。

しかし、これは単なる修辞的な表現でもないし、作り上げた奇想でもない。世紀の変わり目のペテン師、名をジョージ・C・パーカーと言う、は実際ブルックリン橋を何度も売ってみせたのだ。

Since the bridge was completed in 1883, the idea of illegally selling it has become the ultimate example of the power of persuasion. A good salesman could sell it, a great swindler would sell it, and the perfect sucker would fall for the scam.

But this was not just a rhetorical or a fictional conceit. A turn-of-the-century confidence man named George C. Parker actually sold the Brooklyn Bridge more than once.

一回だけじゃなく何度もってのが凄すぎるんだけど、その彼のペテン手法が以下載ってます:

The Brooklyn Bridge — “If you believe that, I have a bridge in Brooklyn to sell to you”

ジョージ・C・パーカー(1860-1936)はニューヨークの出身で、フレーズ「I have a bridge in Brooklyn to sell to you」の出処の張本人である。パーカーはニューヨーク市のあらゆる種類の建造物を売ったことで有名になった、マディソン・スクエア・ガーデンから自由の女神まで。彼はまたメトロポリタン美術館や北軍総司令官グラントの墓さえ孫と偽って売ったのだ!

彼は偽の営業所を立ち上げ、詐欺で使う書類を偽造した。田舎者やカモを見つけるのに彼が愛用した場所の一つはエリス島である、そこでは移民達の幾人かは新事業に投資するための金を持ってやって来たからだ。時間や場所も分からぬニューヨークに初めて来た旅行客も彼の格好の餌食となった。

彼の過去最高の詐欺はブルックリン橋を売ったことだ。伝説によると、彼は週に少なくても2度売ったらしい。彼は橋を何度も売ったし、ある時は5万ドルで売ったのだ! 橋の新しい所有者が詐欺に引っ掛かったと気付いたのは、彼ら「新しい所有者」が橋の真ん中に料金所を設置しようとしてるのをニューヨーク警察に止められた時だった。

George C. Parker (1860-1936), a native New Yorker, was responsible for originating the phrase. Parker, of whose life we know became famous for selling New York City landmarks of all kinds ranging from Madison Square Garden to the Statue of Liberty. He also sold the Metropolitan Museum of Art and even Grant’s tomb as the general’s grandson!

He would set up fake sales offices and forge documents to support his cons. One of his most popular places for spotting rubes or victims was Ellis Island where some of the immigrants came with money to invest in new enterprises. Out-time out-of-town tourists on their first visit to New York comprised another favorite target.

His greatest con was selling the Brooklyn Bridge. Legend claimed that he sold it at least twice a week. He did sell it several times including at least once for $50,000! The new owner would be discovered he was the victim of a con when the New York police officers would stop the “new owners” from setting up toll booths in the middle of the bridge.

エリス島は自由の女神像を望みながら移民達が最初に到着する移民局が置かれていた有名な島。そこに天才詐欺師が口を大きく開けて待ち受けているのですから、週2ブルックリン橋も可能なのかもね(笑)

そんな彼も、4度目に御用になった時に終身刑を言い渡され、刑務所で静かに息を引き取ることになります:

George C. Parker

1928年12月17日、4回目の有罪判決の後、シンシン刑務所での終身刑の判決を言い渡された。(略) 彼は人生最後の8年をそこで収監され過ごし、彼の数々の偉業を聞くのを楽しむ刑務官や仲間の囚人たちの間で人気となった。パーカーはアメリカ史上最も成功した詐欺師の一人として、そして歴史上最も才能ある詐欺師の一人として記憶されている。

After his fourth conviction on December 17, 1928, he was sentenced to a mandatory life term at Sing Sing Prison […] He spent the last eight years of his life incarcerated there and was popular among guards and fellow inmates who enjoyed hearing of his exploits. Parker is remembered as one of the most successful con men in the history of the United States, as well as one of history’s most talented hoaxers.

最後に

ということで、フレーズ「I have a bridge to sell you(君に売る橋があるんだけど)」は伝説の詐欺師ジョージ・C・パーカーがカモに話し掛ける時に使ったフレーズなんですね(笑) そして、このパーカーの旦那の話は超有名なので、このフレーズを使うことで相手が騙されやすいってのを仄めかしているニュアンスになるのでした。日本語で言えば「消防署の方から来たんですけど」が近いかも知れない(違)

自分も今度「君にも簡単にできる英語勉強法があるんだけど」とか言ってみようかな(笑) それでは〜


騙されたと思って↓