ミュージカルドラマ『glee/グリー』

ちょっと古い海外ドラマに『glee/グリー』というのがあるのですが、私は結構好きなんですよね。内容は学園モノで、高校の負け犬グリー合唱団がわずか数年で全国大会まで昇りつめた奇跡を通じて信頼と愛を余す所なくドラマ化したという、日本における『スクール☆ウォーズ』のラグビーを合唱団に置き換えた設定。日本では当時NHKで放送されていたのかな。

『glee/グリー』の番組宣伝ポスター
Glee [Credit: Fox]

パイロット版の出来

そんな『glee/グリー』のいわゆる第一話パイロット版は、お世辞も出来が良いと褒められる内容ではないんですよね。というのも、ドラマの第一話というものは、作品の舞台背景やら、登場人物の紹介やらをする必要があるので、必然どうしても急ぎ足になってしまう。と同時に、最も重要な視聴者の興味を2話以降までつなぐという命題もあるんです。さらには、この『glee/グリー』はミュージカルなので、毎エピソードに数曲歌や踊りも入る。だから、監督たるシェフがどうやってこの注文の多い料理店を切り盛りするのか、その手腕が問われるわけです。

『glee/グリー』で、ライバル校ボーカル・アドレナリンのパフォーマンス
Glee [Credit: Fox]

通常、刑事モノではこれを、ドラマ冒頭で小事件を解決して探偵の能力紹介とし、後半で大事件を解決することで達成するのですが、『glee/グリー』の監督は全く別のアプローチを取るんです。なんと、客から注文された料理を「クソッタレ」とばかり全部ぶっ込みやがったのです(笑) 出来上がった料理は、ストーリーも急ぎ足の、ナレーターさえも早口の、視聴者置いてけぼりのものになったんですね。

Don’t Stop Believin'

ただ、この作品が今でも色褪せないのは、初回エピソード最後の場面なんです。グリークラブ前担当が生徒への痴漢を密告され首になって一銭にもならないのに急遽就任したスペイン語教師ウィルですがグリークラブの名前をニュー・ディレクションズにしたり生徒をライバル校の視察へ連れて行ったりしたものの妻の妊娠という家庭の事情でエマ必死の説得にも関わらず薄給の先生を辞めて経理という新たな道を進もうと学校を後にしようとする瞬間(ナレーター風に読んでね。そうです、一話内でここまで話を展開してるのです(笑))、そして茶の間のテレビ前の視聴者も来週から違う番組見ようかと考えている瞬間、ある歌のイントロが講堂から流れてくるんですね。それがアレンジされた『Don’t Stop Believin’』なんです。

このパフォーマンスが信じられないくらい素晴らしく、特にレイチェル役のリア・ミシェルの歌声が神がかっていて、それまでのことが全て許されてしまうのです(笑)

実際、YouTubeのコメント欄には

This is the most iconic song of the show, no question.

これがこのドラマの中で最も象徴的な歌だね、疑問の余地なく。

I realize now why this was so amazing. The kids were literally just enjoying themselves, no fancy choreography, no fancy costume, no glitzy backdrop.

これが何故素晴らしいのか今気付いたよ。彼らは文字通り楽しんでいるだけなんだ、洒落た振り付けもない、派手な衣装もない、きらびやかな背景幕もない。

I still come back to this performance every now and then. I remember when I first saw this I decided that I was going to watch and enjoy this show.

時々今でも僕はこの演奏に戻ってくるんだ。これを最初見た時このドラマを見て楽しむんだと決めたことを思い出すよ。

The way Lea sang ’the smell of wine and cheap perfume’ I can’t - its too beautiful

リアの「the smell of wine and cheap perfume」の歌い方、私はできない − 美しすぎる

と大絶賛の嵐なんです。

死亡した役者3名

と同時に、コメント欄には「RIP(ご冥福を祈ります)」の文字も多数散見されます。というのも、この上記YouTubeクリップ内に出てくる3人もの役者が既にお亡くなりになっているからですね。そこで、追悼がてら、亡くなった原因も含め以下振り返ってみます。

フィン・ハドソン役のコリー・モンティス

『Don’t Stop Believin’』の男性パートを歌う主役の一人コリー・モンティス(Cory Monteith)の死が、この海外ドラマの終わりをも早めたと言っても過言ではないでしょうね。

『glee/グリー』で、『Don't Stop Believin'』を歌うフィン
Glee [Credit: Fox]

2013年7月、カナダのホテルで死んでいる彼が発見されます。死因はヘロインとアルコールの薬物中毒。この時は『glee/グリー』のシーズン4と5の間だったので、番組関係者が大騒ぎになったのは想像に難くない。実際、ドラマのストーリーは大幅に変更され、フィンのキャラクター自身もドラマ内で死んだ設定にされる。『奥さまは魔女』ではダーリンの中の人の薬中問題で役者を入れ替えて対応したけど、さすがに『glee/グリー』でその手は無理だったかな。

Cory Monteith

『glee/グリー』劇中でのモンティスの恋愛対象でもある、恋人ミシェルとの相談の後、製作総指揮者たちは『glee/グリー』シーズン5の撮影を7月下旬ではなく8月に延期した。その結果、シーズン5は予定より一週間遅れで放映された。(略)ドラマは、彼の死後どうやって展開していくのかを決めるのに、11月7日まで短い中断を挟んだ。

After consultation with Michele, who also plays Monteith’s love interest on Glee, showrunners postponed production of Glee’s fifth season to August rather than late July. Consequently, the season premiered a week later than planned. […] The show then began a brief hiatus, which lasted until November 7, 2013, due to the extra time that was needed to decide how to proceed with the show following the death.

なお、記事で言及されているように、この時モンティスは女優ミシェルと付き合っていたとのこと。ドラマ内でもフィンとレイチェルの恋の行方に関心がありましたが、リアルでもそうだったのですね。

シーズン5のエピソード3(2013年10月10日放送)がフィンのキャラクター追悼に捧げられたエピソードになり、プロデューサーのライアン・マーフィーは次のシーズンでの番組の終わりを告げます:

Glee (TV series)

彼の追悼エピソード「クオーターバック」が放送された後、マーフィーはシーズン6が最後であろうと報告した。

after his tribute episode “The Quarterback” aired, Murphy announced that the sixth season would be the series’ last.

彼の死がなければ、ドラマのシーズン数がもっと伸びていただろうと思うと、本当に残念でなりませんね。特に、フィンとレイチェルの恋の行方・・・

ノア・“パック”・パッカーマン役のマーク・サリング

次に鬼籍に入るのがパック。ドラマ内では当初はフィンと同じアメフト部で、モヒカン頭のいじめっ子。クインとの間に子をもうけていましたっけ。

グリークラブを見下げる敵側のポジションで『Don’t Stop Believin’』クリップには登場。

『glee/グリー』で、『Don't Stop Believin'』のパフォーマンスを見るノア・"パック"・パッカーマン
Glee [Credit: Fox]

そんな彼は、ドラマが終了した3年後の2018年に首を吊って自殺しているところを発見されるのですが、そこまでに至る経緯がドラマの視聴者的には斜め上過ぎるんですよね。というのも、彼は児童ポルノで捕まっているのでした。

Mark Salling

2015年、サリングは児童ポルノ保持で逮捕された。2017年、彼は罪状を認め、そして2018年1月30日に自殺をした、予定されていた3月7日の量刑審理の前に。

In 2015, Salling was arrested for the possession of child pornography. In 2017, he pleaded guilty to the charges and committed suicide on January 30, 2018, before a sentencing hearing scheduled for March 7.

でも、児童ポルノの前に、実は元カノへの婦女暴行で捕まって大金で示談にしてるサリング:

Mark Salling

性的暴行罪

2013年1月、サリングの元彼女ロクサーヌ・ゴーゼーラは2011年3月25日に彼が性的暴行を犯したとして告発、性行為中コンドームを外した罪で。彼は罪を否定し、名誉毀損で対抗訴訟を提訴。2015年3月、サリングはゴーゼーラと法廷外で示談し、270万米ドルを払うことで合意する。

Sexual assault charges

In January 2013, Salling’s ex-girlfriend Roxanne Gorzela accused him of committing sexual battery on March 25, 2011, by having unprotected sex without knowledge that it was unprotected. He denied the charges and filed a counter-suit for defamation of character. In March 2015, Salling settled with Gorzela out of court and agreed to pay her US$2.7 million

2013年はドラマ『glee/グリー』の真っ最中。フィンだってまだ死んでいません。そんな中訴えられたのですね。ただ、最終的にお金を払うことになったのは、裁判では争えない確実な証拠があったからなのでしょうか。

そんな事があったので、大人から子供へ興味を移していったのかと考えがちですが、元々そういう性癖だったみたいです。児ポ所持も元カノからのタレコミで発覚します:

Mark Salling

児童ポルノ所持罪

2015年12月29日、サリングはロサンゼルスの自宅で逮捕された、児童ポルノを描いた数千の写真やビデオを所持した疑いで、彼の元彼女の一人からの警察へのタレコミで。(略)起訴の結果、サリングはアディ・シャンカーの映画『Gods and Secrets』の役から外された。2017年10月30日、彼は児童ポルノの所持の罪を認めた、それは4から7年の懲役の結果になると予想され、性犯罪者として登録され、治療プログラムを受け、他の条件と共に。

Child pornography charges

On December 29, 2015, Salling was arrested at his Los Angeles home on suspicion of possessing several thousand photos and videos depicting child pornography, following a tip-off to the police from one of his ex-girlfriends. […] As a result of the charges, Salling was removed from the cast of Adi Shankar’s film Gods and Secrets. On September 30, 2017, he pleaded guilty to possession of child pornography, which was expected to result in Salling serving four to seven years in jail, registering as a sex offender, and entering a treatment program, among other conditions.

そして、翌年の1月30日に首吊り自殺をするのですね。海外ではペドファイルには人権がないので、有名人&最長7年のムショ暮らしを絶望したのか・・・。

いずれにしても、元彼女二人に通報されていることから、サリングは何か人格的に問題を抱えていたんでしょうかね。『glee/グリー』の撮影中にそれが出なくて良かった気がします。なお、敢えて訳しませんが、YouTubeなんかのコメント欄では彼はボロクソの言われようです。小児性愛者は蛇蝎のごとく嫌われているのが分かります。

サンタナ・ロペス役のナヤ・リヴェラ

サンタナ・ロペスは『glee/グリー』では、ブリトニーと共にクイン子分のチアリーダーでしたが、ブリトニーとのレズに目覚めて、ドラマ内でその存在を強化していきました。

(左から、スー、クイン、サンタナ)

『glee/グリー』で、『Don't Stop Believin'』のパフォーマンスを見るスー、クイン、サンタナのチアリーダー部
Glee [Credit: Fox]

時は2020年7月、新型コロナが世界的に本格的に流行りだして数ヶ月、ニュースでも毎日スッタモンダしてた頃に飛び込んできたのがナヤ・リヴェラ失踪のニュース。彼女が4歳の息子をボートに残し、湖で忽然と姿を消したのです。すわ事故に巻き込まれたかと『glee/グリー』ファンの間で騒ぎになりますが、5日後に湖で遺体となって発見されます。死因は溺死。

この話が本当に悲劇なのは、ナヤ・リヴェラが息子の目の前で死んでいったこと:

Death of Naya Rivera

溺死

リヴェラの母ヨランダは述べた、リヴェラと4歳の息子ジョーシー・ドーシーは、2020年7月8日ピルー湖でバーベキューを計画していた、彼女らがボートを借りるか決める前、彼女たちが到着した時。彼女たちは午後1時に桟橋を離れ、3時間後の午後4時に帰ってくる予定だった。彼女たちが帰って来なかったので、捜索が開始された。ドーシーは午後5時に発見される、ライフジャケットを着て船の上で一人眠って。ベンチューラ市の保安官に質問されると、彼は母と一緒に湖へ船から飛び降りてしばらく泳いだ、しかし、母親がすぐ船に戻るよう命じたと語った。彼女らが水の中にいる間に船が流され激しく揺れだした、強風が原因で。父親ライアン・ドーシーの訴訟では(訳注:父親は行政を管理不十分で訴え中)午後風は時速34kmに達したと言う。警察の報告では、ジョーシー・ドーシーは母親が彼を船の上に戻るのを手伝ってくれたが、彼女自身は船に戻れず水面に消えていたっと述べた。一方、父親の訴状では、息子ドーシーは手助け無しで船に戻れたが、母親は戻るのに悪戦苦闘した。両者の説明ともに、ドーシーは母親が手を伸ばして助けを求めたのを見たとする。彼は助けるため船の上のロープを探した、母が力を振り絞っている最中。彼はまた、母がライフジャケット着ていなかったと述べている。

Drowning

Rivera’s mother, Yolanda Previtire, said that Rivera and her four-year-old son, Josey Dorsey, were planning a barbecue by Lake Piru on July 8, 2020, before deciding to rent a boat when they arrived. They left the dock at about 1:00 p.m. PDT, and were expected back at 4:00 p.m., three hours after they left the dock; when they did not return, a search began. Dorsey was found at around 5:00 p.m., alone and asleep on the boat wearing a life jacket. When interviewed by the Ventura County Sheriff’s Office, Dorsey told investigators that he and Rivera had jumped off the boat into the lake together and swam briefly, but his mother quickly told him to get back onto the boat. The boat had begun to drift and rock violently while they were in the water because of the wind, which Ryan Dorsey’s lawsuit says reached speeds of up to 21 mph (34 km/h) that afternoon. Police reports state that Josey Dorsey recalled that Rivera helped him climb back into the boat but was unable to climb back onboard herself and then disappeared underwater, while the lawsuit claims that Dorsey climbed aboard unaided while his mother struggled to do the same. Both accounts state that Dorsey watched his mother reaching up and calling out for help; he searched for a rope on the boat to help while she was struggling. He also stated that she was not wearing a life jacket.

4歳の子供にどのくらい判断できるかは分かりませんが、自分の母親が湖の奥底に消えていくのを目の当たりにした恐怖は想像を絶するものがありますよね。また、もうちょっと年長だったらもしかしたら母親を助けられたのかもと考えると、ファンとしては本当に残念でなりません。

彼女の死は他の二人(ドラッグ中毒、児童ポルノ)と違って、自分の息子を助けて死んでいったことで、ヒーローとして扱われていますね。この話の教訓は、面倒でもライフジャケットは着ようでしょうか。タイトルを失念しましが、太平洋のど真ん中で乗員全員が船外に降りてしまい、船に上がれなくなったサスペンス映画がありましたが、ナヤ・リヴェラの事故であれを思い出しました。

最後に

今回は、YouTubeでお勧めで出てきたグリー・キャストの歌う『Don’t Stop Believin’』を見ていたら、3名の役者が既に亡くなっていることに気付いて、死因等状況をまとめてみました。

ま、どういう死因であれ、どれも早すぎる死ですよね。『glee/グリー』が終わったの2015年ですからね。一部ではこのドラマは呪われているとか噂されていますが、4番目が出てきたらマジで信じちゃいそうです。それでは〜