海外ドラマ『殺人を無罪にする方法』

『殺人を無罪にする方法』の番組宣伝ポスター
How to Get Away with Murder [Credit: ABC]

海外ドラマに『殺人を無罪にする方法』というのがあるんです。大学の犯罪学の教授が、自分の講義で優秀な学生を自分の弁護士事務所で雇って、依頼人の容疑者の犯罪事件をどうにかするという話。詳しくは自分の目でご確認下さい。自分は『ギルモア・ガールズ』のパリスの中の人が出てたのでシーズン1だけは見た気がします(確か、シーズン2の途中で脱落)。

いずれにせよ、このドラマの英語での原題は『How to Get Away with Murder』なんですよ。でもさ、これを「無罪にする方法」と訳すのはちょっと違うと個人的にはずーっと思ってきたんです。

もちろん、邦題なんて日本人に分かりやすいように、売れるように、目立つように、マーケティング戦略を考えて付けられているのは分かるんです。でも、なんか引っかかるんです。小魚の骨が喉に引っ掛かっている感じ。この喩え分かるかな?(笑)

以下、原告(自分)の論証です。

証拠1:イディオム「get away with」の意味

まず、重要な「get away with」について。海外ドラマを見ていてこれを知らない人はもぐりと言えるほど頻出。意味は「罪を逃れる」こと:

get away with

(イディオム的)何か好ましくないことをしたことに対する罪を逃れる。

(idiomatic) To escape punishment for doing something objectionable.

Wiktionaryには「get away with murder」の項目までありました(笑) 意味は、目的語が「殺人」になっただけ:

get away with murder

(イディオム的)何か悪いこと違法なことをしても、罪を受けないこと。

(idiomatic) To do something bad or illegal and not be punished.

ここまでは基本ですが、ここで重要なのは無罪にはなっていない点。exonerateではないんです。罪を受けずに済んでいるってだけ。

誰にでも分かる例え話をすれば、

学校から帰ってきたら、お父さんが取っておいたケーキが冷蔵庫あって、それを食べたのがバレて、「パパー、もうしないからゴメーン(はぁと」と純情ぶって(coy)許される娘がget away withなんです。でも、これは無実ではないんですよ。罪を逃れられているだけ。

証拠2:『ベター・コール・ソウル』での「get away with」

『ベター・コール・ソウル』には、get away withの有罪性に関わる会話があったので、原告は証拠としてこれを提出します。

ケトルマンという役所の経理担当が公金を横領します。それで行政から訴えられます。でも明確な証拠がないんですね。当初ケトルマンはジミー(下図男)に無罪の弁護を頼もうとするんですけど、キム所属の大手弁護士事務所に切り替えるんです。レモネードスタンドにプロフェッショナルな仕事は頼む人はいないようです。そこで深夜、ジミーはこの件でキムに探りの電話を入れるんですね。それがこのシーン。

ジム: how much exactly did Kettleman get away with?
キム: Uh, excuse me, innocent until proven guilty?
『ベター・コール・ソウル』で、キムに電話するジミー
Better Call Saul [Credit: AMC]

単刀直入に「ケトルマンは正確にいくら罪を逃れたのか(get away with)」と聞くジミー。つまり横領した額を尋ねているんですね。それに対しキムは「推定無罪でしょ」と、自分のクライアントのケトルマンはまだ無罪と一応は主張するのです。

ここで、ジミーは有罪、キムは無罪とケトルマンを考えていることになりますね。つまり、ジミーの使ったイディオム「get away with」は無罪を意味せず、有罪のままなんですよ(笑)

原告最終弁論

だーかーらー、『How to Get Away with Murder』を『殺人を無罪にする方法』とするのはおかしいんです。というのも、無罪になってなく有罪のままだから。罪を逃れているだけってこと。

I rest my case!(私の論証は終了です!)

最適な日本語訳を探して

それでは結局、『殺人を無罪にする方法』でなくなんというタイトルにしたら良いのでしょうか?

ここでは、海外ドラマ好き視聴者にリーチするとかそういったSEO的な話は全部放って、意味がより正確に通じる日本語訳を考えてみます。

how toは方法、murderは殺人なんですから、結局、「get away with」をどう訳すかに収れんされる問題ですね。I have no objection!

まず、「罪」を「殺人」に移して、「殺人罪を逃れる方法」はどうでしょう? 無罪とまでは言い切ってないので、かなり正確になってます。ただ、殺人罪以外で有罪になる可能性は残されています。

次に、get away withを「ただで済む」と考えれば「殺人をただで済ます方法」とも言えそうですね。

他にも、日本語の「罪」を「咎(とが)」に置き換えれば、「殺人をお咎めなしにする方法」とも言えそう。咎められてないだけで、無罪にはなっていません。個人的にはこれが一番好きかな。

最後に

今回は海外ドラマ『How to Get Away with Murder』の意味が『殺人を無罪にする方法』ではない事を示したくて記事にしてみました。ようやくつっかえていた骨が取れたようです(笑)

このように、海外ドラマ・映画の邦題がその英語題名の正確な訳を反映してるわけではないので、視聴する際は注意が必要ですね。

というか、そもそも、英語の原題をどれほどの人が気にしてるかは疑問ですけど。それでは〜