言葉は色んな意味を持つ

英語に限らず言語を勉強してると分かりますが、一つの言葉が複数の意味を持つことがあります。というか、特殊な単語でない限りほとんど複数ですね。例えば、日本語の「肩」は人間の肩を意味しますが、登山をやってる人なら山頂からちょっと下った平らな部分を肩というのも知っていると思います。山を人になぞらえて肩と呼んでいるわけですね。

山の崖に立つ男性ハイカー
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コミュニケーション上一つの単語が複数の意味を持つのは混乱を呼びがちのはずですが、通常、我々は前後の文脈(コンテキスト)に沿ってこの意味を選択・解釈するので、ほぼ問題にならないのです。野球投手の話の最中に肩が出てきたのなら、それは人間の肩の方を表すのでしょうし、山に登った文脈なら山の肩の意といった具合に。

一つの単語が一つの意味しか持てなくなったのなら伝えたい意図は正確になりますが、逆にそれは不便極まりないのかもしれませんね。覚えるべき単語数が数倍になってしまい、かえって大変な労力です。それ故、我々人類は同じようなもの(形、アイデア、感覚等)には同じ単語を当てはめる単純化をしつつ、言語を発展させてきたのです。ある意味、肩を壊さないよう省エネ投法なわけですね。

だから、単語や表現の意味を尋ねる時は、それが使われた文脈を与えることが非常に重要なのです。

なお、言語学習時に最初に覚えるべき単語の意味としては、それが持つ複数の意味の中でもっとも一般的なものになるはずですよね(通常、辞書に一番最初に載っている意味)。外国人が日本語の「肩」の意味を覚える際に、山の肩の意味を最初に覚えることは殆ど無いのです、彼・彼女が特に登山好きでない限り・・・

「Sidebar(サイドバー)」の意味とは?

さて、皆さんは「サイドバー」と聞いて何を思い浮かべるでしょうか? 私は裁判中の弁護士を思い浮かべます。問題があったのか「sidebar」と言って裁判長の前に相手方弁護士とともに集まって何やら相談し始めるシーンが典型的:

ハーヴィー: We can roll the dice with the jury, but I’d rather settle.
『SUITS/スーツ』で、ハーヴィーはサイドバーをする
Suits [Credit: USA Network]

実際、英語のsidebarにはこの意味があるのです:

sidebar

(アメリカ、法律)短い協議、裁判官と訴訟の弁護士、陪審員や裁判の聴衆に聞かれないよう開かれる。

(US, law) a short conference, between a judge and the attorneys of a case, held outside the hearing of the jury and the spectators at the court

アメリカ法廷での「Sidebar」

つまり、通常、裁判での議論というのは陪審員や一般聴衆に公開され速記もされたりしますが、なにか外部には聞かれたくない内輪の(技術的な)話の場合に、サイドバーが行われるのですね。これは日本にはない慣習のような気がします。『逆転裁判』にはなかったかな(笑)

なお、ドキュメンタリー『ジェフリー・エプスタイン: 権力と背徳の億万長者』では、実際のニュース報道の中でこのsidebarが説明されていました。曰く、「エプスタイン氏の弁護士がサイドバーして話した、法廷の残りの人達は聞くことが出来ない何かを」。

ナレーター: Mr. Epstein’s lawyers then took a sidebar and went up and talked to the judge about something that the rest of the courtroom couldn’t hear.
『ジェフリー・エプスタイン: 権力と背徳の億万長者』で、裁判でサイドバーする弁護士団
Jeffrey Epstein: Filthy Rich [Credit: Netflix]

なお、サイドはもちろん横の意味、そして英語はバー(bar)で弁護士の意味があるんですね。だから、弁護士が横でちょっと話すことがサイドバーなのは、個人的にそこまで外れてない気がしてたんです。ちなみに、disbarなら弁護士資格剥奪の意味ですね。

チャック: He deserves disbarment, not some slap on the wrist.
『ベター・コール・ソウル』で、チャックはハワードにジミーの弁護士剥奪を望む
Better Call Saul [Credit: AMC]

でも、私のこの考えは間違っていました。なんと、サイドバーは場所だって言うんです。Wikipediaの「Sidebar」の記事を見てみましょう:

Sidebar (law)

アメリカで、サイドバーとは法廷内の裁判官席近くの場所だ、弁護士が呼ばれて裁判官と話す、陪審員に会話を聞かれないように、またはオフレコで話すために。弁護士は「裁判官席に近づいてよろしいですか?」や単に「近づいてよろしいですか?」と形式的要求を出す、サイドバー協議を始めるために。もし許可されたのなら、敵対弁護士も会話に参加することが許可されなければならない。

In the United States, the sidebar is an area in a courtroom near the judge’s bench where lawyers may be called to speak with the judge so that the jury cannot hear the conversation or they may speak off the record. Lawyers make a formal request by stating, “May I approach the bench?” or, simply, “May I approach?” to initiate a sidebar conference. If it is granted, then opposing counsel must be allowed to come forward and participate in the conversation.

正式フレーズ「May I approach the bench?」を探して

すると気になるのが、sidebarのための正式フレーズ「May I approach the bench?」が使われるのかどうか。調べたところ、アメリカドラマはsidebar一色でしたが、ブリティッシュコメディにようやくこのフレーズを見つけることができました。

『ハイっ、こちらIT課!』というカルト的人気を誇るコメディの裁判シーン。「May I approach the bench?」そのままですね。裁判長がYour Graceですけど。

ダグラス: Your Grace, may I approach the bench?
『ハイっ、こちらIT課!』で、ダグラスはサイドバーを裁判長に要求
The IT Crowd [Credit: Channel 4]

なお、この会話の続きがコテコテのコメディっぽいので掲載:

裁判長: Have you brushed your teeth?

ダグラス: No.

裁判長: Then you may not.

と、歯を磨いてないので却下されてしまいます。このように、笑いというのは本質的にはクダラナイのです。

さて、これが法廷でのsidebarについての全てです。弁護士がsidebarと言って裁判長席のサイドバーの部分に集まって、裁判の日程やら証人やら、陪審員を隔離する(sequester)やらを、外部に聞かれないように話し合うんですね。

そして、これが私が知ってるサイドバーの全てでした。

偶然別のサイドバーと出会う

しかし、後日、私は別のサイドバーと出会うんですね。 Why’s (Poignant) Guide to Ruby⤴️ という日本発のプログラム言語Rubyを奇妙なきつね達が紹介するウェブページ。

右側のメインの文章とは別の補足的なコメント欄が「Sidebar!」となっているのですね。

Why’s (Poignant) Guide to Rubyの第二章のウェブページキャプチャ
Why’s (Poignant) Guide to Ruby webpage

これを見た瞬間、私は雷に打たれます。サイドバーの明々白々な別の意味に気づくんですね。横の欄って(笑)

sidebar

(インターネット)ウェブページの横に置かれる情報のまとまり。

(Internet) A block of information placed at the side of a webpage.

つまり、YouTubeとかでリンクや関連動画や情報が置かれる横の枠のことをサイドバーというのです。この発想は・・・あるよなー。そういえば、このブログだってPCで見れば、トップページには立派にサイドバーがあるのですよ(笑)

YouTubeのサイドバー
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「Sidebar(サイドバー)」の語源とは?

それじゃあ、「sidebar」の語源って一体何なんでしょう? ウェブページのサイドバーは、元々は新聞などの出版業界から:

Sidebar (publishing)

この用語は長い間新聞や雑誌のページレイアウトで使われていた。

The term has long been used in newspaper and magazine page layout.

sidebar (n.)

新聞での長い記事に付随する派生記事は1948年から、形容詞side + 名詞bar。この単語は機械工学、法律等で使われている。

“secondary article accompanying a larger one in a newspaper,” 1948, from side (adj.) + bar (n.1). The word has been used in other senses in mechanics, law, etc.

ただ、問題は、私が最初に認識した法廷でのsidebarなんです。この語源は何故かネットのどこにも明確に書かれていないのですが、我らがvocabulary.comの次の説明を読んだら、なんとなく分かってきました:

sidebar

サイドバーは長い記事の横の小さいテキスト欄のことだ。サイドバーは通常隣の中心記事に関連する情報を持つ。サイドバー・アラート:これは、会話の途中での議題の変更をも意味する。

A sidebar is a small section of text next to a longer article. A sidebar usually has information that relates to the main story beside it. Sidebar alert: it also means changing the subject in the middle of a conversation.

つまり、法廷で弁護士がサイドバーするのは、メイン裁判とは議題が少し異なる副次的内容を話し合うため。新聞の主記事から離れて副記事を読んでるようなものなのですね。だからサイドバー。そして、その話し合いのためのゾーンも当然サイドバー。もちろん、サイドバーの場所が法廷の横っちょにあれば良かったんでしょうけれど、裁判長を動かすわけにはいきませんから、裁判長席の目の前がサイドバーの場所。サイドバーの意味は場所ではなく話す内容なんですね。

これで個人的に裁判でのsidebarに納得(add up)いきました。多分、それほど外してないと思います。

最後に

今回は何故か最初に覚えた裁判でのsidebarが、実は新聞でメイン記事とは別の補足の横枠記事を意味して、結局その意味故に裁判でsidebarと言われてることを見てみました。

なお、ここにサイドバーは2つの意味「メイン記事の付属の記事欄」と「メイン裁判の付属の議論」があるのですが、冒頭で述べたように、この2つの概念に同じ単語を当て嵌めるのは、なかなか素敵と思いませんか?(笑) それでは〜