韓国でのハロウィン群衆雑踏雪崩圧死事故

ハロウィンに戦慄するニュースが飛び込んできました。お隣の韓国で156人(現時点)の群衆が圧死したというのです。聞いただけだとにわかには信じられませんが、映像を見ると、その壮絶さが伺い知れます。

死者が出た付近では1平方メートルに13人程度の密度(結果的に)ということですから、日本人向けに分かりやすく言うと、6畳(約11平方メートル)の部屋に143名詰め込まれた換算。どれくらいの密度か、想像を絶するのが分かります。物理的に全員立てないので体が積み重なる状態。亡くなられた方のご冥福を祈るばかりです。

実は、私は事件発生当初に、海外のニュースでその人々が崩れ落ちる付近の動画をもろに見てしまって、本当に見たことを後悔しています。普通そういった動画や画像には「NSFW(職場では見ないほうがいい)」という注意書きがあるものですが・・・。

ニュースで使われる誤用「Stampede」の意味

気を取り直して。今回紹介したいのは、この事故のニュースで使われる「stampede(スタンピード)」という英単語。

全て今回の事故での群衆の動きを意味しようとしているんですけど、ネット上ではこの語句stampedeの使用にクレームが付いているんです:

At least 120 dead after stampede during Halloween festivities in Itaewon, South Korea

「stampede」はこれらに対しての望ましい単語ではもうないよ。「stampede」というと『ライオンキング』を考えさせられるけど、これはcrowd crushだ。苦しい、ゆっくり、怖い死。人々はお互いを押し合った。動けない。息をするのにもがく。アストロワールドの事故やヒルズボロの悲劇を思い出して。僕が大きな集団を怖がる理由さ。

“Stampede” isn’t the preferred word for these anymore. “Stampede” makes me think of The Lion King. This is a crowd crush. An agonizing, slow, scary death. People pushed against people. Can’t move. Struggling to breathe. Think Astroworld. Or Hillsborough. The reason I’m scared of large crowds.

つまり、stampedeは動物等が集団で逃げ去る意味なんですね:

stampede

多くの動物の、興奮した、大急ぎの走り去り、又は逃げ去り;通常、恐怖に駆られて;従って、突然の逃走や分散、パニックの結果群衆や集団の。

A wild, headlong scamper, or running away, of a number of animals; usually caused by fright; hence, any sudden flight or dispersion, as of a crowd or an army in consequence of a panic.
象の集団移動
Image by Ian Lindsay from Pixabay

このニュアンスから照らし合わせると、たしかに韓国のハロウィンの事故はスタムピードとは言えないのです。だって、群衆は狭い路地裏に詰め込まれすぎて、逆に身動きが取れない状態なのですから。

過去にあったディスコなど建物での火災で、大勢の人々が出口めがけて同時に逃げてきて、詰まって死んたというニュースの場合はstampedeで合ってるんですね。マスコミはその時の用語をそのまま今回の場合にも当てはめようとしているのですが、今回はすし詰め状態過ぎて動き回れない、スローなので、stampedeの使用は適していないという状況です。

代替用語:Crowd collapses and crushes

それでは、なんと呼べばいいのでしょうか? 実は、前掲したRedditのコメント氏がもう書いてくれています

crowd crush

意味合いは、群衆の押しつぶし。これに関しては、既にWikipediaに記事がありました:

Crowd collapses and crushes

crowd collapseとcrowd crushは悲惨な事故だ、一団の人々が危険なほど混み合った時に起こる。一団の人々が1平方メートルに4から5人の密度に達したり超える時、個々人に対する圧力は群衆を自分たち自身の上に崩れ落ちさせる、または、相当密集して詰め込まれるので、個人は潰され窒息死する。

この密度では、群衆は液体のように振る舞い始める、個人は自分の意志に関係なく押し流される。このような事故は、常に組織の失敗の産物だ。そして、ほぼ主要の群集事故は、簡単な群衆管理戦略で防ぐことが可能だ。

Crowd collapses and crushes are catastrophic incidents that can occur when a body of people becomes dangerously overcrowded. When a body of people reaches or exceeds the density of four to five people per square metre (0.37 to 0.46/sq ft), the pressure on each individual can cause the crowd to collapse in on itself, or become so densely packed that individuals are crushed and asphyxiated.

At this density, a crowd can start to act like fluid, sweeping individuals around without their volition. Such incidents are invariably the product of failures of organizations, and most major crowd disasters can be prevented by simple crowd management strategies.

ここで、crowd collapse(群衆の崩れ落ちの意味)とは、超密集した群衆の中の一人が崩れ落ち、その空いた隙間に更に人々が周囲からの超絶な圧力で押されて崩れ落ち、という連鎖反応で、人の山ができる状況。組体操の多段ピラミッドやタワーで崩れ落ちた状況といえば想像しやすいでしょうか。確か、あれでも子供が亡くなっているんですよね。今回の韓国のハロウィン事件ではこれが発生したようです。

またcrowd crushは、群衆の押し合いの圧力で胸が圧迫され、そのまま息ができなくなってしまうこと。これも今回の事故では立ったまま亡くなった方が居るというので、発生しています。

倒れる立ったまま、いずれにしても、呼吸ができずに窒息死という辛いに死に方をするのは同じ。ですから、Redditのコメント氏は大きな群衆を避けるのですね。

日本では、韓国のハロウィン事故をどう呼んでいるか?

ところで、個人的に少し気になったので、日本ではこの韓国の事故をなんと言って報道しているのか、ちょっと調べてみました。

群衆事故

まずは、英語の「Crowd collapses and crushes」のページから日本語の記事に飛ぶと出てくる群衆事故。意外と秩序はある気もします。

群集事故

群集事故(ぐんしゅうじこ)とは、無秩序な集団によって発生する事故である。

将棋倒し

これは、ドミノ倒しってことでしょうけど、少しニュアンスが違うかな。結果的にはドミノが垂直に何枚も重なる感じですので。なお、この表現は将棋連盟からクレームがある模様。

圧死事故

これは死に方で命名。そのままですけど、実際は窒息が死因。超圧死事故というパターンも。超を付けるのは適しているかも。

雑踏事故

うーん、単なる雑踏じゃない気がするので、他に適した表現はないかな? 超雑踏事故?

転倒事故

転倒といえば転倒なのか? でも転んで死ぬわけじゃないし。

群衆雪崩

これも将棋倒しのニュアンスでしょうか? 狭い範囲での雪崩ですね。

と言った感じでした。

最後に

今回は海外のメディアで韓国のハロウィン事故を報道するのに「stampede」が間違って使われているという話でした。恐怖にかられても逃げることすら出来なかった状況は、想像を絶する恐怖だったと思います。自分も今後混んでる群衆は避けようと思った次第です。

なお、『奥さまは魔女』にダーリンが群衆の殺到に巻き込まれたのをstampedeを使って表現するシーンがありました。何故かホッとする群衆の少なさです。それでは〜

ダーリン: I got caught in a stampede

『奥さまは魔女』で、群衆に飲み込まれるダーリン
Bewitched [Credit: ABC]