“Many Pitchers Are Effective in a Big League Ball Game until that Heart-Breaking Moment Arrives Known as the “Pinch”—It Is then that the Man in the Box is Put to the Severest Test by the Coachers and the Players on the Bench—Victory or Defeat Hangs on his Work in that Inning—Famous “Pinches.”
Pitching in a Pinch by Christy Mathewson

2023 WBC 準決勝メキシコ戦で9回裏代走に出る周東選手

そういえば、WBC野球ネタでもう一つ。準決勝メキシコ戦で、四球を選んだ吉田選手に代わって塁に出た周東選手。日本語では「代走」ですが、これをMLBのクリップで見ると・・・

2023 WBC 準決勝メキシコ戦の9回裏に二塁打を放ち雄叫びを上げる大谷選手
@MLB channel on YouTube [Credit: 2023 World Baseball Classic, Inc]

そうなんです。英語では表記がpinch-runnerになっているんです。これは、日本でもたまに「ピンチランナー」と呼ぶので不思議でも何でもないですが、よく考えてみると、そもそもこれってピンチなの?とも思えるんですよね。

更に思考を巡らすと、野球には「ピンチヒッター」というのもあるわけです。これも代打と言うことが多いような気もしますが、やはりこれにも「そもそもピンチなのか問題」が存在しますよね。

ピンチに代理の意味でもあるのでしょうか?

そこで、日本逆転勝利の余韻が冷めやらぬ中、この不思議な野球用語「ピンチヒッター」と「ピンチランナー」について調べてみました。

野球で代打のピンチヒッターと捕手と球審
Image by Keith Johnston from Pixabay

pinchの意味とは

明らかにヒッターとランナーは打者と走者の意味なので、問題の単語は「ピンチ」です。これは既に皆さんご存知のように、日本語での意味は「危機」ですね。というか、野球の格言(?)に「ピンチの裏にチャンスあり」がありますし、日常会話で大ピンチとか言ったりもします。

ただし、英語のpinchには、実は元々は別の意味合いがあります。つねる、つまむという動詞の意味:

pinch

  • 人の皮膚や体の少量を絞る、痛くする。
  • 親指と人差指でつまむ。
  • To squeeze a small amount of a person’s skin and flesh, making it hurt.
  • To squeeze between the thumb and forefinger.

通常はこの意味で出てくることがほとんど。

だから、英語の料理本を読めばa pinch of saltという表現が頻繁に出てきますが、これが「塩一つまみ」の意味になるのは分かると思います。

ちなみに、下記画像は「pinch」で検索して出てきたものです(笑)

たるんだお腹をつまむ
Image by Bruno /Germany from Pixabay

日本語ピンチになるまで

更に、この物理的につねるところから、痛い意味が出てきます。

pinch (v.)

14世紀中期から「痛める、苦しめる」。

From mid-14c. as “to pain, torment.”

すると、名詞として「in a pinch」という定形フレーズが出てきます:

pinch (v.)

15世紀後期に、「正念場」(in a pinch(危機で)のように)、動詞pinchから。

late 15c., “critical juncture” (as in in a pinch “in an emergency”), from pinch (v.).

このin a pinchという表現は頻繁には出てきませんが、海外ドラマの字幕を見ると、時々は出てくるようです。

次はシェルドンにフォーチュンクッキーを割らせようとするペニーの図。もちろん、シェルドンはそんなものは信じません。クッキーの真ん中のもので人生の問題を解決するのはオレオだけと(笑)

シェルドン: Penny, there’s only one cookie with something in the middle that solves life’s problems, and that’s an Oreo. Or a Nutter Butter, if you’re in a pinch.
『ビッグバン★セオリー』で、シェルドンとペニーは中華レストランでフォーチュンクッキーを食べる
The Big Bang Theory [Credit: CBS]

野球スラングとしての「ピンチ」

さて、ここからこの「ピンチ」がどうやって野球に取り入れられ、ピンチ・ヒッター、ピンチ・ランナーとして発展していったかですが、私と同じような疑問を持つ人がネット上には居て、同じような質問をしていました(笑) それらへの回答を以下見てみましょう:

What is the origin of the baseball term "pinch hitter"?

回答

「in a pinch」というフレーズはいつも追い詰められた状況を意味してる。19世紀初頭、ニューヨーク・ジャイアンツの投手クリスティー・マスューソンは「Pitching In A Pinch」という投球ガイドを書いた。その中で、彼は僅差の試合で塁が埋まっている状況を「ピンチの中」での投球と表現した。僕は誰が最初に使い出したかは見つけられないが(多分マスューソンか、あるいはあまり有名でない人か)しかし、ある時点で「ピンチヒッター」という概念はゲームの決定的な状況で打者として送り出される人になったんだと思う。多分ゲーム自身と同じくらい古いんじゃないかな。

Well, the phrase “in a pinch” has always meant “a precarious situation”. In the early 1900s, New York Giants’ pitcher Christy Mathewson wrote a guide to pitching called Pitching In A Pinch where he referred to pitching “in a pinch” as a situation where men were on base in a close game. So I can’t find a specific citation of who used it first — maybe Mathewson, maybe someone less famous did it first — but at some point, the idea of a “pinch hitter” being someone brought in to hit at a critical point in the game is probably as old as the game itself.

他にも、

"Pinch hitter" as the name for a substitute batter

回答1

クリスティー・マスューソンが「Pitching In A Pinch」という本を書いていて、その中で、塁上に走者がいるときに頑張って本気を出す必要があることを強調している(これは初期のピッチャーが長打が少なかったので全然本気で投げていなかったことから実証される)

回答2

マスューソンがフレーズ「In a pinch」を使っていたのなら、それは疑いなくよく知られた専門用語だったと思うよ。僕はいつもピンチヒッターをピンチで送り出される打者として受け取っているんだ

Reply 1

In case it helps, Christy Mathewson wrote a book called “Pitching In A Pinch”…in which he stressed the need to bear down and use your best stuff when there were runners on (and heavily substantiating the theory that early pitchers did not throw their hardest at all times due to the relative paucity of long hits).

Reply 2

If Mathewson was using tha phrase In a pinch, it undoubtedly was well set in the common venacular. I’ve always taken pinch hitter as that, a hitter who is brough up in a pinch

といった具合。塁上がランナーで埋まって逆転の「危機」にある状況をピンチと言って、そこに出てくる打者を「ピンチヒッター」と言ってるようですね。

野球で塁上に出る走者
Image by Michelle Raponi from Pixabay

ただし、もうちょっと突っ込んで調べたいのも事実。と思っていたら、なんとこのみんなに言及されている本「Pitching in a Pinch」は著作権が切れてるためか、アマゾンのKindleで100円で入手できるようです。そこで早速買って読んでみると・・・

多く大リーグの試合では、勝利か敗北かが決まる運命のイニングがやって来る。ある知的なファンはそれを危機と呼び、スポーツに興味のある大学教授はそれを絶好の機会と名付ける。大リーグの監督はチャンスと称し、投手達は「ピンチ」と口にする

“In most Big League ball games, there comes an inning on which hangs victory or defeat. Certain intellectuàl fans call it the crisis; college professors, interested in the sport, have named it the psychological moment; Big League managers mention it as the “break,” and pitchers speak of the “pinch.”
Pitching in a Pinch by Christy Mathewson

つまり、ピンチとはゲームの運命を左右するイニングということで、塁上にランナーが埋まってる状況というのは上のネット上で回答されていたのと同じですね。

投手用語としての「ピンチ」

ただし、この本で分かる興味深い事実は、「ピンチ」は投手(ディフェンス側)用語である点。運命を左右するイニングならば、攻撃側から見て、そこに出たきた守備固めはpinch replacementでも良さそうですし、そこで出てきた絶対的リリーフ(大魔神佐々木のような?古!)はpinch pitcherでも良さそうなものですが、この場合絶対「ピンチ」は付かないんですね。だって、ピンチはピッチャー用語だから。だから、in a pinch(ピンチの時)に出てくる「攻撃側」の選手だけをピンチ○○と投手は呼ぶのです。

最後に

今回は野球における「ピンチヒッター」「ピンチランナー」の語源について調べてみました。結局、投手から見たピンチの際(in a pinch)に出てくる攻撃側の選手のことなんですけど、つねるpinchから野球スラングになって、そこからピンチヒッターになるんですから、言葉の変遷というものは面白いもの。日本語ではピンチとして定着までしているんですからね。それでは〜


ブルペンだと・・・?↓