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『ジェフリー・エプスタイン: 権力と背徳の億万長者』感想

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『ジェフリー・エプスタイン: 権力と背徳の億万長者』のポスター
Jeffrey Epstein: Filthy Rich [Credit: Netflix]

ジェフリー・エプスタイン: 権力と背徳の億万長者(Jeffrey Epstein: Filthy Rich)』は、ネトフリからやってきたミニドキュメントシリーズ。そのタイトルにもあるように、とある一人の大金持ちジェフリー・エプスタインに光を当てる。

日本人にとっては、この名前に聞き覚えがない人が殆どかもしれないね。でも、海外のニュースをよく見てる人なら、昨年大金持ちの小児愛者(pedophile)が牢屋で自殺したというニュースがあったことで覚えている人がいるかもしれない。また理系の人なら、MITメディアラボ所長の伊藤穰一がジェフリー・エプスタインから密かに資金提供を受けていた件で辞任したことで、記憶にあるかもしれないね。

自分の場合は、MITメディアラボの騒動で初めてこの人の名前を知ったんだけど、後日以下のセックス・ダンジョンの記事を書く際に調査してたらジェフリー・エプスタインの名前が出てきてびっくり。それ以来非常に気になっていたんだよね。

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そんなわけで、結構期待して『ジェフリー・エプスタイン』を見始めたんだけど、これがなかなかの佳作ドキュメンタリーだったんです。

彼はニューヨークのブルックリン生まれ。大学をドロップアウトして学位もないのに口八丁手八丁で学校の先生になっちゃう。彼は当時から人を操るのが極端にうまかったらしく、その学校を首になると、生徒のツテで今度はニューヨークの大手投資銀行に潜り込むんだ。再度言わせてもらうと、学位ないんだけどね(笑) 投資銀行ってのは合法的な詐欺みたいものだから、人を操るのがお手の物の彼には合ってたみたい。そんなこんなでその銀行で順調に出世していったんだ、途中経歴詐称がバレて(海外ドラマの『SUITS/スーツ』みたいだね)見逃してもらったりしたけど。でも、最終的に違法なことをやってるのがバレて、会社を追い出される。そんな彼が次に姿を現すのがねずみ講の詐欺。もちろん、人を操るのに長けた彼にとっては、子ネズミを増やすことなんて造作もないことだったんだろうね。その後については番組内では語られないんだけど、トランプ大統領含む様々な有名人と写真を撮ってたりするので、それからもビジネス等で成功を収めたことは間違いないかな。後半には英国のロイヤルファミリーも登場するし。

そして、十数年の月日が過ぎるのだが・・・

『ジェフリー・エプスタイン』で、トランプと一緒に写るジェフリー・エプスタイン
Jeffrey Epstein: Filthy Rich [Credit: Netflix]

時を移し、眠らない街ニューヨークの一角。画家を目指す一人の女性は学校卒業の個展を開くんだけど、そんな彼女の作品を全部買い占める男が現れた。それがジェフリー・エプスタイン。彼女の描く絵は自分の妹をモチーフにしたセミヌードだったんだけど、ジェフリーの旦那はそれがたいそう気に入ったらしく、パトロンになるとか学費を援助するとかの甘言で、姉妹を自分のテリトリーにおびき寄せ、毒牙にかけてしまうんだ(詳しくは本編で)。この自分のテリトリーにおびき寄せる手法はその後ずっと共通する。

そして場所を移して、フロリダはパームビーチ。こちらではもっとすごい。地元の中流階級の中高校生の女の子をマッサージしてくれたら200ドルやると言って大豪邸におびき寄せ、マッサージのフリして襲うんだ。それだけじゃない。犠牲者に友達を紹介したら200ドルをやると言って、犠牲者をも共犯者として自分のシステムに取り入れてしまう狡猾さ。こんなことうまくいくのかと思うんだけど、相当な犠牲者がいるところを見ると、残念ながらうまくいってしまったようだ。ねずみ講的な発想。そして、犠牲者の少女のほとんどが家庭に問題を抱えていたことからも、自分が操りやすい獲物を狙っていたのが分かる。これが下手すると10年近く続いていたってんだから恐ろしい。友達を50人以上紹介した子供もいたようだ。

しかし、若い女性が取っ替え引っ替え出入りしてれば、当然疑いの目を向けられるわけだ。遅ればせながら地元のマイアミ警察が極秘に調査し始めたのだ。相手はこの時点では大富豪のセレブ。犠牲者の証言を取ったりの地道な裏付け捜査の末、ようやく令状を取ってパームビーチの豪邸を家宅捜索する。しかし、踏み込んではみたものの、そこは既にもぬけの殻。重要な証拠は既に移された後。捜査はジェフリー側に完全に筒抜けだったようだ。相当のコネを持っているのが分かるってもの。それでも、少女のヌードの絵が全面に飾られた部屋があったりなど、彼のその性癖の異様さは捜査官に寒気を起こさせたようだけどね。

それから、直接的な証拠はないんだけど、マイアミ警察は検察に起訴できないか相談をする。犠牲者に正義を届けるため必死だったんだね。だけど、ここで前代未聞の不思議な事が起こる。当時の南マイアミ連邦検事が、なんとジェフリーと密かに司法取引きをしてしまうんだ。その内容は、彼が罪を認める代わりに連邦政府は今後一切ジェフリーとその関係者を本件で訴えない。これだけ聞くと何も問題なさそうなんだけど、彼が認める罪の中身が大問題。なんと、売春だけだったんだ。未成年のみの字はどこにもなかったんだね。例えると、銀行強盗して捕まったのに、不法侵入だけで起訴するようなもの(笑) 犠牲者の女の子たちとマイアミ警察の落胆ぶりは半端なかっただろうね。

ところで、そんな南マイアミ連邦検事だけど、つい最近まで何してたか知ってる? 実はトランプ政権で労働省長官をやってたんだ。日本で言うところの厚生労働大臣。これだけでも、闇の深さの一端は垣間見えるというもの。

『ジェフリー・エプスタイン: 権力と背徳の億万長者』で、労働省長官アコスタの辞任ニュース
Jeffrey Epstein: Filthy Rich [Credit: Netflix]

さて、そんな彼の小児愛者としての来歴を、犠牲者の女性のインタビューと共にこの番組は追っていくんだよね。2回目の逮捕から独房内での自殺までノンストップ。いや、1話50分*4話で200分はあっという間に過ぎることは私が保証します。面白いのが、少女たちの往時の写真を見ると結構な数が歯列矯正をしてる点。以前、幼さと象徴ということで以下の記事で取り上げたけど、なんかそれに欲情する人がいると知って驚愕。

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視聴後の番組の感想は、このドキュメンタリーはアメリカのニ層構造の司法制度の実態を非常よく表していると感じました。富めるもの貧しきものには全く別の法がそれぞれ適用される。現実には法は万人に全く平等じゃない。ジェフリー・エプスタインのようなことをやったら普通は逮捕され起訴さるんだけど、金を持ってて権力者と知り合いなら、それが免除される現実。道路のゴミ拾い程度のコミュニティーサービスで許される。その一方、金を持たないものは保釈金が払えず、刑務所に入れられ前科がついていく

司法と言えば正義の女神のユースティティアが有名ですが、彼女が目隠しをしてるのは誰にとっても平等であるためなんです。しかし、残念ながら、現実ではそれはファンタジーに過ぎないみたいですね。

正義の女神ユースティティア
Image by S. Hermann & F. Richter from Pixabay

そして、視聴中ずっと疑問だったのが、どうして多くの少女がエプスタインの毒牙にかかってしまったのか。未成年、家庭の問題、エプスタインの人心掌握等あるとは思うんですけど、それでも初期の犠牲者が声を上げていれば、ここまで犠牲者は増えなかったんじゃないかなって。もちろん、番組内ではマスコミに垂れ込んでもエプスタインが握りつぶす姿が描かれるのですけどね。個人的に、インタビュー受ける犠牲者の多くが「彼は金があってパワーがあって」と言うのが非常に気になったんです。二層化された司法が前提になってしまっていて、彼の前では自分は無力っていう諦めが感じられてしまい、そこがすごく悲しかった。本来、法というものは金もパワーも関係してはいけないはずなのに。

最後に、このドキュメンタリーの気になる点を少々。まず、最大の難点はたった4エピソードでは全貌をカバーしきれていないこと。エプスタインのおっさんがどうやって金持ちになったか等が説明されてないんです。もしかしたら米国人にとっては前提知識かもしれないんですが、我々日本人にとっては、視聴後も空白が多すぎるんですよね。彼の性癖がいつ始まったのかとかも不明。大学退学後即学校の先生になったのだってその辺関係してるかもしれないじゃん。でも説明は一切なし、深堀りもなし。それがすごく不満。

さらに、このドキュメンタリー、時系列順じゃないんですよ。監督が小手先テクニックが好きなのかもしれませんが、時間が前後に飛ぶ飛ぶ。まるで『バック・トゥ・ザ・フューチャー』を見てるかのよう(嘘です)。前のこと頭にしっかり入れておかないと途中からついていけなくなる(特に自分は英語で見てるんでw) 視聴者に印象づけたかったりしたいんでしょうけど、ジェフリー・エプスタイン誰それ?美味しいの?って人にはまるっきり逆効果なんですよね。

そして最後に、ジェフリー・エプスタイン側の声が全く無い点。出てくるのが、元弁護士と犠牲者にレイプしたと訴えられてるおじいちゃんだけ。インタビュー断られてるのは番組最後に文字情報で出てくるんで分かるんですけど、なんとかならなかったのかな。ジェフリー・エプスタインと付き合いのあった有名人は現実にたくさん居るわけです。というか、所有してる島で接待で少女を提供してたりするんですからね。ノーコメントと分かっていても突撃取材の映像の一つや二つあったら良いなと感じました。英国皇子もBBCの映像の間借りだし。例えば、ヒラリー・クリントンに旦那とジェフリー・エプスタインのこと聞いたりさ(笑) クリントンは22回島に行ってるらしいんで。

いずれにしても、胸糞は悪くなるけど(ジェフリー・エプスタインにも、アメリカの司法制度に対しても)、視聴してよかったです。更に興味が深まった。セックス・ダンジョンを調べているときにエプスタインの名前が挙がった理由も納得です。というか、全然ダンジョンじゃないじゃん、セックス・アイランドじゃん! 本人に自殺されてしまって真相は藪の中なのが非常に悔やまれます。自殺というのも口封じに殺された説等色々あるみたいですけどね。

このドキュメンタリーは万人向けじゃないので強くオススメはしないけど、ここまで読んで内容に興味持ったのなら見てもいいと思いますよ。

それでは〜

(追記:) エプスタインの恋人で共犯者ことマックス(Ghislaine Maxwell)もついに逮捕されたみたいですね。