You Will Break No China

海外ドラマ『HOMELAND』を見ていた時、表題のフレーズ「You will break no china」が出てきました。今回はこれの意味をどうやって把握したかを書いてみます。探偵ドラマには及びませんが、英語の勉強が実は点と点を線で結ぶ感じであることを味わっていただければと思います。そして、海外ドラマ視聴がその強化に役に立つこともね。

『HOMELAND』の場面の背景説明

まずこのセリフの場面に至る状況ですが、イラクで敵の手に落ちた海兵隊員ブロディが8年の時を経て本国へ生還したところから始まります。上記リンク先にあらすじがあります。英雄として迎えられるブロディに対し、CIA捜査官のキャリーは敵側に寝返ったという疑念が払拭できません。CIAからブロディへの事情聴取(debrief)があると聞きつけたキャリーは、自分もその会議に出席させて欲しいと上司のソールに頼み込みます。何もしないという約束を取り付けて、ソールはキャリーの出席を渋々了承するのです:

ソール: I need you to promise. You will raise no eyebrows in there. You will break no china.
キャリー: I promise.
『HOMELAND』で、キャリーの会議への参加を許可するソール
Homeland [Credit: Showtime]

ここで、raise eyebrowsは「驚かす」と言うイディオム。そこにnoがついているので「みんなを驚かすようなことはするな」と言ってます。その次が問題のセリフ「You will break no china」です(no eyebrows no china とライム(押韻)っぽくしています)。chinaは国の中国ですから、中国を壊すなと言われてもいまいちピンとこないと思います。でも、ここでは文脈的に「変なことをしないと約束しろ」とソールは迫ってるわけで、直前の周囲を驚かすなと似た意味か、あるいはその延長の意味と推測できます。英語に少し詳しい人は、chinaに陶器の意味があることを知っているかと思います。それだと動詞breakともピッタリ合いそうです。即ち、陶器を壊すな。ここでは会議で本物の陶器を壊すなと言ってるわけではなく、比喩的に「揉め事を起こすな」と言う感じに取れそうです。残念ながらこの「You will break no china」辞書には載っていない表現ですが、自分自身もこのセリフを聞いた瞬間そう取ったのです。

『SUITS/スーツ』でchinaと邂逅

さて月日は流れて、弁護士ドラマ『SUITS/スーツ』を見ていると面白い表現に出くわしました。場面概要は次の通り。大金持ちの遺産相続人の二人の娘が遺産の分配で揉めているため、ジェシカの弁護士事務所が手伝いをすることになります。ジェシカは、ハーヴィーとルイスを二人の娘にそれぞれ割り当て、互いに競わせます。ハーヴィーとルイスはライバル関係ですから、どっちも遺産配分を自分が有利なように持っていこうとします。そこで、卑怯なことはなしにするため、ルイスは守るべきルールを3つ提案します。1つ目は資産の評価(valuations)を第三者に委託すること。2つ目は両者の上司であるジェシカを仲裁で呼ばないこと。そして最後が「Chinese wall」。直後に説明がありますが、内部文書にアクセスしないこと。同じ弁護士事務所の同僚ですから、ライバル関係と言っても、アクセスしようと思えば相手の文書(情報)にアクセスできるわけです。部屋に忍び込んで覗き見るとか。そういうのはご法度、正々堂々と勝負というわけですね。

ルイス: Point three. Chinese wall. You can’t access any internal documents that I create.
『SUITS/スーツ』で、ハーヴィーとルイスは遺産相続で競う
Suits [Credit: USA Network]

イディオム「Chinese wall」の意味

さて、このChinese wallですが、文字通りの意味は「中国の万里の長城」の意味なことは分かりますけど、それでは意味が通りません。そこで辞書を引いてみました。すると、

Chinese Wall

チャイニーズ・ウオール、部署間情報規制 (インサイダー insider 取引を防ぐための規制。中国の万里の長城になぞらえて)
英辞郎

とありました。部署の間にあるべき壁ってことですね。なんでも右から左に情報を流せるようだとインサイダーがしやすくなってしまいますから。

紅葉の万里の長城
Image by JLB1988 from Pixabay

そしてこの瞬間アハ体験です。『HOMELAND』のセリフが正確に分かってしまいました。もう一度再掲します。

ソール: I need you to promise. You will raise no eyebrows in there. You will break no china.
キャリー: I promise.
『HOMELAND』で、キャリーの会議への参加を許可するソール
Homeland [Credit: Showtime]

キャリーはブロディの事情聴取の末席に参加させてもらうわけですから、その仕事は自分の本来の職務ではありません。他部署の仕事です。本来壁(Chinese wall)があるべきです。ソールは、その壁を壊すなと言っているわけです。「陶器」を壊すなではなく「壁」を壊すな。ここでは、chinaはChinese wall(Great Wall of China)です。他の部署の仕事に介入するな、というわけ。結局余計なことをするなと言う意味合いなのは同じですが、壁としたほうが意味が通じると思います。

まあ、この解釈が間違っている可能性も十分あるとは思いますが、すごいいい線だと個人的には思います。そうすると、字幕のchinaは大文字のChinaにした方がいいのかな? でも、小文字ってことはやっぱり「陶器」なのかも・・・。いや、字幕職人が間違ったんじゃ・・・。

こんな感じで『HOMELAND』の「You will break no china」の意味っぽいものに最終的にたどり着いたのですが、いやあ、海外ドラマの英語視聴って面白いと思いませんか? あれ?水野晴郎っぽいな(笑) それでは〜

Harvey, look at what we’ve done. You and me. You broke the Chinese wall.
『SUITS/スーツ』で、ハーヴィーとマイクが情報の壁を壊す
Suits [Credit: USA Network]