リトルインディアンがさー
エンディアンと間違う友達

インディアン嘘つかない?

私は物心付くかどうかの幼少期に「インディアン嘘つかない」というフレーズを繰り返し聞いた記憶があります。その一時期以降全く聞かなくなったわけですが、今調べると、海外ドラマ『ローン・レンジャー』で人気を得て、

ローン・レンジャー

インディアンの青年・トントの台詞「白人嘘つき。インディアン嘘つかない」 (中略) などの流行語を生んだ

タバコのフィルターの広告等で知名度を確固なものにしたようですね。

子供の私が海外ドラマを見てるわけないので、多分CMで繰り返し聞いて耳に残ったんだと思います。

そんなフレーズ「インディアン嘘つかない」も、日本では「インディアン(Indian)」という呼称が差別だということで、放送禁止用語(自主規制? 要出典)になっていったわけですね。でも、数十年経っても未だにそのフレーズが耳に残っているわけですから、当時はなかなかキャッチーだったのかなと感じます。

MLB クリーブランド・インディアンスの球団名変更

いずれにしても、昨年、ジョージ・フロイドの白人警察による窒息死に端を発したBLM(Black Lives Matter)運動が米国内で活発になる中で、アメリカ社会が人種差別に対し厳しい視線を投げかけるようになると、年末に大リーグのインディアンスが球団名を変更するというニュースが出てきました:

Indians weigh 'best path forward' for team name⤴️

元々のこの球団のロゴをを見てもらえれば分かるように、インディアンスは現在言うところの「ネイティブ・アメリカン」をモチーフにしているんですね。

MLB クリーブランド・インディアンスの旧ロゴ「ワフー酋長」
Cleveland Indians logo Chief Wahoo

なお、このロゴは2018年に新しものに置き換えられています。

今回ロゴだけでなく、球団名自体も置き換わってしまうということで、社会の趨勢の移り変わりの早さが伺えます。

「Indian」という呼称の変遷

ところで、個人的に気になったのが、アメリカ社会での「インディアン」という呼称の変遷。いくら歴史があるとは言え、現在は球団名には不適切となりましたが、遠い昔はOKだったわけです。そこで、いつくらいから「Indian」から「Native American」に移り代わっていったのか、暇な週末に調べられる範囲で調べてみました。

海外ドラマでの「Indian」「Native American」

A: Not Indians from India, Indians from, you know, here.

B: Well, if they were Indians from here, they would be called American Indians, you dork.

C: No, they’d be called Native Americans

NCIS

まず最初は、この記事のタイトル通り海外ドラマでのインディアンの例を探ってみますが、その前に上の『NCIS』の会話を解説。1人目がインドの「Indian(インド人)」ではなく、ここ(アメリカ)の「Indian(インディアン)」と言うと、2人目が「American Indian(アメリカン・インディアン)」って言うんだよ、ボケと返します。それに対し、3人目が「Native American(ネイティブ・アメリカン)」だよ、と更に訂正してる場面(笑) それくらい混乱してるんですね。

アンという名の少女

名作『赤毛のアン』の翻案ドラマ『アンという名の少女』は、時代背景的に「インディアン」という用語を普通に使っていますね。ちなみに小説『赤毛のアン』は1908年発表。

マリラ: Indians? Did they threaten you?
『アンという名の少女』で、マリラはアンを心配する
Anne with an E [Credit: CBC Television]

奥さまは魔女

エンドラが雑誌を読んでいると、子どもたちが部屋に入ってきます。カウボーイごっこをしているようですね。西部一の早撃ちガンマン、インディアン、馬という役割。「カウボーイ=正義、インディアン=悪」という勧善懲悪はアメリカ文化のお約束です(日本でいうところでの、水戸黄門と悪代官)

子供1: I’m Black Bob, the fastest gun in the West.
子供2: I’m an Indian. He’s a horse.
『奥さまは魔女』で、子どもたちがカウボーイごっこ
Bewitched [Credit: ABC]

ギルモア・ガールズ

「余ったマフィンの底でスーキーは何を作るのか?」とクリストファーが問うと、ローレンは「彼女はインディアンみたい」と言ってから、「バッファローの解体のように残さず全部使う」と言います。ここはインド人ではなく、ネイティブ・アメリカンの方の意味ですね、buffalo(バッファロー、水牛)ですから。『ギルモア・ガールズ』は2007年放送。でもまだ問題ないのかな?

ローレライ: Oh, she turned them into a pie, you know? She’s like an Indian. They use all the parts of the buffalo.
『ギルモア・ガールズ』で、ローレライとクリストファー
Gilmore Girls [Credit: The WB]

プリズン・ブレイク

ティーバッグが元カノ家庭に押しかけた場面。maize(とうもろこし)を使ったダジャレ(pun)の解説をする際に、単語「maize(メイズ)」をインディアンの言葉とします(実際はスペイン語なのでこれは間違い)。少女の返し「corn-fused」もうまい。ティーバッグはクズ野郎なので、インディアンと言う呼称を気にしていないのですね。

ティーバッグ: If any of us could eat any more corn, I’d be amazed. See what I did there, Gracey? Indian word for corn is “maize,” and I just said, “amazed.”
少女: I don’t get it. I’m corn-fused.
『プリズン・ブレイク』で、ティーバッグは恋人の家に押し入る
Prison Break [Credit: Fox]

ビッグバン★セオリー

レナードとインド人の彼女プリヤの会話が面白かったので紹介。プリヤが「白人の彼氏を家に連れて行ったことがない」と言うと、レナードは「自分はそこまで白人じゃない」としてから「先祖にチェロキーの血が入っている」として、「正しいIndianじゃないけど、ちょっとしたこと(something)でしょ」と結びます。ある意味インディアンの一種と言いたいわけ(笑) 海外ドラマのキャラクターにネイティブ・アメリカンの血が混ざっているのはたまに言及されます。

プリヤ: I could never bring a white boy home to my parents.
レナード: I’m not that white. My great-great-grandmother was half Cherokee. That’s not the right kind of Indian, but it is something.
『ビッグバン★セオリー』で、レナードとプリヤの会話
The Big Bang Theory [Credit: CBS]

アンブレイカブル・キミー・シュミット

『アンブレイカブル・キミー・シュミット』にはネイティブ・アメリカンのジャッキーというキャラが出てきますが、その彼女が実家に戻ったシーン。父親に「お前はインディアン」と言われると彼女は「インディアンは侮辱的」と訂正します。年取ったネイティブ・アメリカン達が未だに自分たちを「インディアン」と名乗るパターンです。

父: But you’re an Indian, Jackie Lynn.
娘: God, Dad, saying “Indian” is offensive now.
『アンブレイカブル・キミー・シュミット』で、ジャッキーは実家のネイティブ・アメリカン保留地に戻る
Unbreakable Kimmy Schmidt [Credit: Netflix]

ビッグ・リトル・ライズ

2017年放送の『ビッグ・リトル・ライズ』には、子供が「インディアン」と言うと母が「ネイティブ・アメリカン」と訂正するシーンがありますね。この辺ではうるさくなってるのかな。

子供: Indians?
母: Native Americans, honey.
『ビッグ・リトル・ライズ』で、自分の家系を辿るマデリンと子供
Big Little Lies [Credit: HBO]

ということで、「Indian」だけの検索ですが、海外ドラマではここ十数年くらいで「Indian」という発言が訂正されるパターンが出てきた感じです。なお、それ以前から「Indian」という単語の使用を自主規制している番組もあると思うのですが、そこまでは不明。「Native American」の使用と合わせて調査する必要がありそうですね。また一部は「Indian」とか呼称を気にしないキャラ設定の意味もあると思います。

ちなみに、「American Indian」という呼び名は海外ドラマでは少ないです。

なお、ここ最近の海外ドラマでの単語「Indian」は「インドの、インド人」を意味することがほとんどで、「インディアン」を意味する時は「Indian reservation(先住民保留地 )」や「Indian burial ground(先住民埋葬地)」みたいな使い方がされますね。そして「Indian food」や「Indian CEO」みたいな日常で出てくる場合は100%「インド」の意味になってます。

まあ、だから、元々インド人と区別できなかった「Indian」を「Native American」としたのは、意味を判別しやすくするという点では良かったのかもしれません。

ネイティブ・アメリカンのパレード
Image by dlewisnash from Pixabay

Wikipediaから呼称「Indian」の時系列

以下、アメリカ先住民の呼称がどう移り変わっていったのかをWikipediaの該当記事から見ていきます。

インディアン(Indian)とアメリカインディアン(American Indian)

まずは混乱の全ての元凶コロンブス。彼がインドと間違って原住民をインディアンと呼んだところが発端:

"Indian" and "American Indian" (since 1492)

コロンブスは代理で彼を派遣する旨を記したスペイン国王からのラテン語のパスポート「ad partes Indie(インド地方に向かって)」を持参していた。彼がアンティル諸島に上陸した時、コロンブスはそこで出会った原住民を「インディアン」と呼んだ、伝えられているところでは、インド洋に辿り着いたという彼の確信を反映して。 この名前は他のスペイン人と、最終的に他のヨーロッパ人により使われる;何世紀もの間、アメリカ大陸の原住民達は、様々なヨーロッパの言語で「インディアン」と一括して呼ばれた。この誤称は地名で永久化した;カリブ海諸島は西インド諸島(West Indies)と名付けられ、現在もその名で知られている。

Columbus carried a passport in Latin from the Spanish monarchs that dispatched him ad partes Indie(“toward the regions of India”) on their behalf. When he landed in the Antilles, Columbus referred to the resident peoples he encountered there as “Indians”, reflecting his purported belief that he had reached the Indian Ocean. The name was adopted by other Spanish and ultimately other Europeans; for centuries the native people of the Americas were collectively called “Indians” in various European languages. This misnomer was perpetuated in place naming; the islands of the Caribbean were named, and are still known as, the West Indies.

これは歴史の授業「イヨクニ」で習った通りですね。なお、Wikipediaにはコロンブス以外の語源の説も載ってますが、ここでは割愛。

ということで、コロンブス御大のおかげで、世界中でアメリカ大陸の先住民を「インディアン」と呼ぶようになったわけです。そこはインドではないにも関わらず。

そこから、「アメリカインディアン」と名乗るように。

"Indian" and "American Indian" (since 1492)

1968年、アメリカインディアン運動(AIM)が米国で発足した。1977年には、スイスのジュネーブでAIMの一部門である国際インディアン条約会議の代表団が一括して「アメリカインディアン」と呼ばれることを選出。一部活動家やラッセル・ミーンズのような先住民の子孫の著名人は最近導入された「ネイティブ・アメリカン」よりも「アメリカインディアン」を好む。

In 1968, the American Indian Movement (AIM) was founded in the United States. In 1977, a delegation from the International Indian Treaty Council, an arm of AIM, elected to collectively identify as “American Indian”, at the United Nations Conference on Indians in the Americas in Geneva, Switzerland. Some activists and public figures of indigenous descent, such as Russell Means, prefer “American Indian” to the more recently adopted “Native American”

というように「インディアン」という単語は残したまま「アメリカインディアン」という呼び方が出てきたんですね。

そうは言っても、やはり「インディアン」の単語に眉をひそめる人は多いんです:

"Indian" and "American Indian" (since 1492)

反論 (1970代から)

「インディアン」や「アメリカインディアン」の使用への反対は「インディアン」が歴史的間違いから来ていることや、そして元々この単語が意味していた人々(インド人)を正しく反映していないことが挙げられる。それに加え、一部の人々は歴史を通しこの単語が文脈上不快さを出すために用いられたくらい否定的に浸透しており品位を落とす含みを持つと感じている。

用語「インディアン」や「アメリカインディアン」の支持者は、これらは長い間使われてきたので多くの人は慣れ親しんでいて、外国人による呼称とは見做されないと考える。今日、両者はいまだ幅広く使われる

Objections (since the 1970s)

Objections to the usage of “Indian” and “American Indian” include the fact that “Indian” arose from a historical error, and does not accurately reflect the origin of the people to whom it refers. In addition, some feel that the term has so absorbed negative and demeaning connotations through its historical usage as to render it objectionable in context.

Supporters of the terms “Indian” and “American Indian” argue that they have been in use for such a long period of time that many people have become accustomed to them and no longer consider them exonyms. Both terms are still widely used today.

アメリカ大陸原住民は白人から「インディアン」と呼ばれて何世紀も過ごしてきたわけで、それがインドとの誤称とか関係なしに既に一般化していた。だから上で例に出した『アンブレイカブル・キミー・シュミット』の両親のように、原住民の中にも「インディアン」と呼ばれることに抵抗がない人もいるわけです。

これは日本人がアメリカインディアンのモカシン靴を履いてみれば分かること。昨日まで「ジャパン」が普通に使われていたのに、実は歴史的に差別だったという理由で、今日から「ジャパン」の使用が検閲されたと考えてみましょう。いきなり差別だと言われても、我々の頭の中「???」ですよね? 「ジャパン」言われても別に差別ともなんとも感じない。逆に「侍ジャパン」って使えなくて困ってしまうかもね(笑)

モカシン靴
Photo by Dayne Topkin on Unsplash

ネイティブ・アメリカン(Native American)

それでは、最近になって出てきた「ネイティブ・アメリカン」についてはどうなんでしょうか? こちらもWikipediaに載っていますね:

"Native American" (since the 1960s)

アメリカ大陸原住民を「ネイティブ・アメリカン」と言及する使用は、1960年1970年代の公民権運動の時代に広まり一般的に使われるようになった。この用語は歴史的事実をより正確に表している(ヨーロッパの植民地化以前から原住民の文化は存在)と考えられた。加えて、活動家は「インディアン」に関連付けられていた歴史的に否定的な含みから解放されると考えた。

The use of Native American or native American to refer to peoples indigenous to the Americas came into widespread, common use during the civil rights era of the 1960s and 1970s. This term was considered to represent historical fact more accurately (i.e., “Native” cultures predated European colonization). In addition, activists also believed it was free of negative historical connotations that had come to be associated with previous terms.

ということで、こちらも公民権運動と共に使用が増えていった背景がありました。なお、この「ネイティブ・アメリカン」という呼称自体にも反対意見はあって、

"Native American" (since the 1960s)

「ネイティブ・アメリカン(大文字小文字に関わらず)」への反対意見は、アメリカ本土に隣接していない外部(アラスカやハワイ、プエルトリコ等)のアメリカ人グループや南アメリカ、メキシコ、カナダの現住人を除外しているとしばしば考えられることへの懸念が挙げられる。「アメリカン」という言葉も時々疑問に挙げられる、というのも、原住民は名前が付けられる前からアメリカ大陸に定住していたのだから。

Other objections to Native American—whether capitalized or not—include a concern that it is often understood to exclude American groups outside the contiguous US (e.g., Alaska, Hawaii, and Puerto Rico), and indigenous groups in South America, Mexico and Canada. The word American is sometimes questioned because the peoples referred to resided in the Americas before they were so named.

ということで、「ネイティブ・アメリカン」で原住民のインディアンだけを指してしまうと、ハワイに居る原住民は「ネイティブ・アメリカン」ではないのか?という困った問題が出てくるようですね。あちらを立てればこちらが立たずって感じ(笑)

なお、当の原住民の子孫がどう思っているかですが、古い資料によれば

"Native American" (since the 1960s)

1995年現在、アメリカの世論調査によると、原住民と識別されている人の50%は「アメリカインディアン」と呼ばれるのを好み、37%は「ネイティブ・アメリカン」、その他は別の用語か特に好みはないと言う結果。

As of 1995, according to the US Census Bureau, 50% of people who identified as Indigenous preferred the term American Indian, 37% preferred Native American, and the remainder preferred other terms or had no preference.

となっており、「アメリカインディアン」が1995年時点では好まれていますね。

ただし、Google Books Ngram Viewerによれば、2000年に入ってからは、書籍上の使用頻度は「ネイティブ・アメリカン」が優勢です。

馬に乗るネイティブ・アメリカン(インディアン)
Image by Bob Bello from Pixabay

「インディアン」は史上最大の誤称?

ということで「インディアン」から「ネイティブ・アメリカン」までを駆け足で見てきましたが、この「インディアン」という誤称が人類史上最大のものと考える人もいるようですね(笑) これは誤称そのものだけでなく、その後にもたらした混乱の大きさも含めてでしょうか?:

The Biggest Misnomer of All Time?

517年前にコロンブスが新大陸に着いた時、この文化が触れ合う極めて重要な瞬間は誤解をはらんでいた。彼が上陸した小さなカリブの島で原住民のルカヤンを見つけるとすぐ、コロンブスは彼らをインディアンと命名した、アジア大陸の東側の浜辺まで航海してきたという誤った印象の元に。探検家や地図製作者はコロンブスが完全に誤っていることにすぐさま気づいたが、この歴史的思い違いは今なおアメリカの先住民を表す単語「インディアン」の中に残っているのだ。

When Columbus arrived in the New World 517 years ago, this pivotal moment of cultural contact was fraught with misunderstanding. Upon finding the native Lucayans on the small Caribbean island where he made landfall, Columbus dubbed them Indians, under the mistaken impression that he had navigated all the way to the eastern shores of Asia. Explorers and cartographers quickly figured out that Columbus was utterly mistaken, and yet even now his monumental error lives on in the word Indian to refer to indigenous peoples throughout the Americas.

呼称が誤っているのに気づいているのにも関わらず、一度回り始めた歯車は誰にも止められないのでした。

最後に

今回は英語での「インディアン(Indian)」という呼称についての変遷の歴史を調べてみました。現在は「ネイティブ・アメリカン」が普通に優勢ですね。ただ、ちょっと前までは「インディアン」が普通に使われていた事実は興味深いです。日本での「インディアン」のタブー化からはだいぶ遅れている感じがします。

なお、例に挙げた海外ドラマはキャラの性格設定で「Indian」を故意に使ってたりもするので、いつから「Indian」が禁忌になっていったのかを海外ドラマの字幕から読むのは非常に難しいですね。一応、「Indian」の発言直後訂正されるパターンはここ十数年くらいで出てきたことが海外ドラマの字幕を検索して分かります。

Google Books Ngram Viewerの結果も合わせ見れば、2000年に入って人々の意識が変わっていったのは確かなようですね。

いずれにしても、英語の状況を鑑みると、日本での懐かしのフレーズ「インディアン嘘付かない」も、ゆくゆくは「インド人は嘘付かない」の意味と認識される日が来るのかも知れません。もうなってる?? それでは〜